世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語 第3話:器が麺を保護すればいい
作者のかつをです。
第十二章の第3話をお届けします。
今では当たり前のあのカップの形。
その一つ一つの曲線に、これほどまでの緻密な計算と思想が込められていたとは驚きですね。
今回は、その容器開発の舞台裏に迫りました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
日本に凱旋するように帰国した、安藤百福。
彼の頭の中は、新しい発明への熱狂的なアイデアで満ち溢れていた。
彼はすぐに社内にプロジェクトチームを立ち上げた。
「今から、我々は世界を変える新しいラーメンを作る!」
その熱い宣言に、若き研究者たちは胸を躍らせた。
最初の課題は、理想の「器」を見つけることだった。
アメリカで見たあの紙コップがヒントだった。
しかし、ただの紙コップではダメだ。
安藤がチームに課したその条件は、あまりにも多岐にわたっていた。
第一に、片手で気軽に持てる大きさであること。
第二に、熱い湯を注いでも外側が熱くならない、高い「断熱性」を持つこと。
第三に、フォークで麺をすくいやすい形状であること。
第四に、安価で大量生産が可能であること。
そして、最後に最も重要な条件。
それは、輸送中のあらゆる衝撃から中の壊れやすい麺を完璧に守る、「鎧」としての役割を果たすこと。
「器が麺を保護するんや。これはただの容器やない。パッケージであり調理器具であり、そして食器でもある。そのすべての機能を一つで実現するんや」
チームは、来る日も来る日も様々な素材で試作を繰り返した。
厚手の紙、漆器、陶器、金属……
しかし、そのすべての条件を満たす夢のような素材は、どこにも見つからなかった。
プロジェクトは、早くも暗礁に乗り上げかけていた。
そんなある日、安藤が飛行機に乗っていた時のことだった。
機内でアメリカ人のビジネスマンが、ナッツの入った白い容器を手にしていた。
それは非常に軽く、そして頑丈そうに見えた。
「……あの容器は、一体何でできているんだ?」
彼はすぐさま調査を開始した。
そして、ついに運命の素材と出会う。
「発泡スチロール」である。
まだ日本では魚の箱などに使われ始めたばかりの、新しい素材。
それは、まさに彼が探し求めていた奇跡の素材だった。
驚くほど軽い。
無数の小さな空気の泡が熱を遮断し、完璧な断熱材となる。
そして、金型さえ作ればどんな形にも自由に成形できる。
「これしかない!」
安藤は、すぐに発泡スチロール容器の専門メーカーと共同で、オリジナルのカップ開発に乗り出した。
縦長で底が広く、上が少しすぼまった、あの独特の形状。
片手で持ちやすく、そしてフォークで最後の一本まで麺をすくいやすいように計算し尽くされた、機能美の塊。
理想の「器」という、最初の、そして最大の壁はこうして打ち破られた。
プロジェクトは、大きな一歩を踏み出したのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この発泡スチロール容器の採用は非常に画期的なものでした。しかし、当時はまだ高価な素材だったため、これが後にカップヌードルの価格を押し上げる一因ともなってしまいます。
さて、理想の器は見つかった。
しかし、次なる課題はその器にふさわしい「中身」でした。
次回、「宇宙食技術『フリーズドライ』」。
お湯を注ぐだけで本格的な具材が蘇る、もう一つの魔法の技術が登場します。
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