世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語 第1話:チキンラーメン、海を渡る
作者のかつをです。
本日より、第十二章「3分間のフロンティア」の連載を開始します。
今回の主役は、もはや説明不要の世界的発明「カップヌードル」。
その当たり前の容器にどれほどの知恵と工夫が詰め込まれているのか、その誕生秘話に迫ります。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
深夜のコンビニエンスストア。棚には多種多様なカップ麺が、まるで図書館の本のように整然と並んでいる。
受験勉強の夜食に、残業で疲れ果てた日の夕食に、あるいはアウトドアの相棒として。
私たちは、お湯を注ぐだけで温かい一杯の麺料理が完成するその魔法を、当たり前のものとして享受している。
しかし、その当たり前の「カップ」という形が、かつて一人の不屈の発明家がアメリカの地で直面した巨大な「文化の壁」を打ち破るために生まれた、逆転の発想の結晶であったことを知る者は少ない。
これは、一杯のラーメンを日本の食卓から世界の食卓へと解き放った、知恵と工夫の物語である。
物語の始まりは1966年。
日清食品の創業者である安藤百福は、一つの大きな野望を胸にアメリカ行きの飛行機に乗った。
彼が戦後の焼け跡の中から生み出した魔法のラーメン「チキンラーメン」。
お湯をかけるだけで食べられるその画期的な即席麺は、日本の食生活に革命をもたらした。
しかし、安藤は満足していなかった。
「このチキンラーメンの美味しさを、世界中の人々に届けたい」
その大きな夢を実現するため、彼は巨大な市場アメリカへと視察にやってきたのだ。
ロサンゼルスのとある大手スーパーマーケット。
安藤は自信満々で、現地のバイヤーたちの前でチキンラーメンの実演を始めた。
持参した丼にチキンラーメンを入れ、お湯を注ぐ。
ふわりと立ち上る香ばしい匂い。
「さあ、どうぞ召し上がってください」
彼は得意げに箸を差し出した。
しかし、バイヤーたちの反応は鈍かった。
彼らは戸惑った顔で、顔を見合わせるばかり。
「……ミスター・アンドウ。我々のオフィスには、こんな大きなボウルもこの奇妙な二本の棒もありませんよ」
その一言に、安藤は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
そうか……!
この国には「どんぶり」も「箸」もないのか……!
日本人にとってはあまりにも当たり前すぎる、ラーメンを食べるための二つの神器。
それが、この国には存在しない。
彼は、自らの視野の狭さを恥じた。
このままでは、チキンラーメンは一歩も日本の外へは出られない。
食文化という見えない、しかしあまりにも巨大な壁が、彼の夢の前に立ちはだかっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十二章、第一話いかがでしたでしょうか。
安藤百福が発明した「瞬間油熱乾燥法」によるチキンラーメンは、それ自体が食の歴史における偉大な発明でした。しかし、世界に挑むにはもう一つの大きなブレークスルーが必要だったのです。
さて、いきなり巨大な文化の壁にぶつかった安藤百福。
しかし、彼はこの絶体絶命のピンチの中で奇跡のようなひらめきを得ることになります。
次回、「どんぶりと箸がない国」。
すべての始まりとなった運命の光景が、彼の目に飛び込んできます。
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