回転寿司を発明した男の夢 第8話:レーンの上の、小さな宇宙(終)
作者のかつをです。
第十一章の最終話です。
一人の男の奇想天外なアイデアが、いかにして世界中の人々を笑顔にする文化となったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、回転寿司の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
白石義明がその生涯を閉じた後も、彼が作り出したレーンの上の小さな宇宙は進化を止めなかった。
皿の下にはICタグが埋め込まれ、寿司の鮮度はコンピュータで厳密に管理されるようになった。
客はタッチパネルで好きな寿司を注文すれば、新幹線型の特急レーンが席まで届けてくれる。
そして、その文化は海を越えた。
“Kaiten-Zushi” “Sushi-Go-Round”
そのユニークでエキサイティングな食事のスタイルは、世界中の大都市で熱狂的に受け入れられた。
日本の「Kawaii」文化と融合し、それはもはや単なる食事ではなく、一つのクールな体験として世界に認知されていったのだ。
白石義明がかつて夢見た、「世界中の人々に、この楽しさを」。
その夢は、彼が想像したそれ以上の形で現実のものとなった。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのショッピングモール。
一人の少年が目を輝かせながら、レーンの上を流れる寿司を見つめている。
彼は、知らない。
今、自分の目の前をゆっくりと旅しているその一皿が、かつて一人の立ち食い寿司屋の店主が人手不足に悩み、ビールの工場で奇跡のようなひらめきを得た、その瞬間のゴールだということを。
カーブを曲がれないという絶望的な壁にぶつかり、それでも諦めずに私財のすべてを投げ打って戦い続けた、男の執念の結晶だということを。
歴史は、遠い昔の偉人伝の中だけにあるのではない。
私たちの、この休日のささやかな楽しみの中に、確かに回り続けているのだ。
やがて、少年のお目当てだった玉子の寿司が目の前にやってくる。
彼は満面の笑みで、その皿に手を伸ばした。
そのささやかな、しかし最高の幸福。
それこそが、白石義明が生涯をかけて届けたかった、夢の続きなのかもしれない。
(第十一章:ベルトコンベアの上の江戸前寿司 ~回転寿司を発明した男の夢~ 了)
第十一章「ベルトコンベアの上の江戸前寿司」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
白石義明は1997年にイギリスの雑誌で「20世紀に世界に最も影響を与えた100人」の中に選出されています。彼の発明が世界に与えたインパクトの大きさが窺えますね。
さて、外食の世界に革命をもたらした痛快な物語でした。
次なる物語は、今度は器の中にすべての宇宙を詰め込んだ、もう一つの偉大な発明の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十二章:3分間のフロンティア ~世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語~**
もはや説明不要の世界的発明「カップヌードル」。
その当たり前の容器の中に、どれほどの知恵と工夫、そして逆転の発想が詰め込まれているのか。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十二章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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