表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:食卓の革命編 ~家庭の「当たり前」が生まれた瞬間~
7/22

かまどの前の解放宣言 第1話:妻の涙と、失敗したごはん

作者のかつをです。

 

本日より、第二章「かまどの前の解放宣言」の連載を開始します。

今回の主役は、現代の私たちの食卓に、当たり前のように存在する「自動炊飯器」。

その誕生の裏にあった、名もなき技術者たちの、涙と情熱の物語です。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京。

 

あるマンションの一室。帰宅したばかりの若い女性が、慣れた手つきで米を研ぎ、炊飯器の内釜に入れる。

水を注ぎ、スイッチを押す。

軽やかな電子音と共に、炊飯が始まった。

 

あとは、炊きあがりを待つだけ。

焦げる心配も、火加減を気にする必要もない。

ボタン一つで、ふっくらと美味しいご飯が炊きあがる。

 

それは、現代の日本人にとって、あまりにも当たり前の光景だ。

 

しかし、その「当たり前」が、かつては存在しなかった時代がある。

かまどの前で火の番をし、汗と涙と、そしてススにまみれながら、毎日ごはんを炊いていた、母たちの時代が。

 

この物語は、その過酷な労働から日本の女性たちを解放した、魔法の釜の誕生秘話である。

 

物語は、戦後の復興期、1950年代初頭の日本に遡る。

東京芝浦電気(後の東芝)の、とある若き技術者の自宅。

 

その日、彼は、妻が台所の隅で、静かに肩を震わせているのを見てしまった。

かまどには、黒焦げになったお米が、無惨な姿を晒している。

 

「また、やってしまった……」

 

妻の目には、涙が浮かんでいた。

ほんの少し火の番を怠っただけで、貴重なお米をダメにしてしまった。

その悔しさと、家族への申し訳なさで、彼女は打ちひしがれていたのだ。

 

当時のごはん炊きは、重労働であり、博打でもあった。

「はじめチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いてもフタ取るな」

そんな唄が生まれるほど、繊細な火加減が求められる。

 

火力が強すぎれば焦げ付き、弱すぎれば芯が残る。

暑い夏も、寒い冬も、主婦たちはかまどの前に付きっきりで、火の燃えさかる釜と格闘しなければならなかった。

 

その妻の涙が、技術者である彼の心に、静かな火を灯した。

 

「こんな辛い仕事を、毎日続けさせてはいけない」

「火の番をしなくても、誰でも、失敗なくご飯が炊けるような機械は作れないだろうか」

 

それは、一人の夫としての、ささやかな、しかし切実な願いだった。

そして、一人の技術者としての、前例のない挑戦の始まりでもあった。

 

彼の頭の中に、まだ誰も見たことのない、自動式電気釜の、ぼんやりとした設計図が描かれようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

今ではボタン一つですが、昔の「かまど」での炊飯は、本当に大変な重労働でした。特に、薪をくべての火加減調整は、熟練の技が必要だったそうです。

 

さて、妻の涙をきっかけに、壮大な開発を決意した技術者。

しかし、あの有名な「はじめチョロチョロ、中パッパ」を、機械にやらせることは、想像を絶するほど困難でした。

 

次回、「『はじめチョロチョロ』の機械化という難題」。

技術者たちの、悪戦苦闘が始まります。

 

ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!

ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ