回転寿司を発明した男の夢 第7話:寿司の民主化革命
作者のかつをです。
第十一章の第7話をお届けします。
一つの発明が、単に便利なだけでなく社会の「常識」や「文化」そのものをいかにして変えていくのか。
今回は、回転寿司がもたらした偉大な功績に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
大阪万博の後、回転寿司はフランチャイズという翼を得て、日本全国の郊外のロードサイドへと次々と舞い降りていった。
その影響は、計り知れないほど大きかった。
何よりもまず、回転寿司は「寿司の価格」を破壊した。
人件費を大幅に削減できるその画期的なシステム。
そして、大量仕入れによるスケールメリット。
それらは、これまで高級品の代名詞だった寿司の価格を、劇的に引き下げた。
一皿、百円。
そんな信じられない価格で、誰もが気軽に寿司を味わえる時代がやってきたのだ。
そして、回転寿司は「寿司屋の敷居」を破壊した。
カウンターだけの昔ながらの寿司屋。
そこは、独特の符丁が飛び交う「時価」が当たり前の、大人たちの聖域だった。
子供連れの家族が気軽に入れるような場所では、決してなかった。
しかし、回転寿司は違った。
広々としたボックス席。
明朗な皿ごとの会計。
そして、流れる寿司を選ぶゲームのような楽しさ。
それは、父親が家族を連れて胸を張って訪れることができる、新しい「ハレの日の団らんの場所」となった。
さらに、回転寿司は「寿司のネタ」の常識さえも破壊していった。
伝統的な江戸前寿司では決してありえなかった新しいネタが、次々とレーンの上に登場した。
ハンバーグ、エビアボカド、コーンマヨ。
子供たちが喜ぶ、奇想天外な寿司。
保守的な寿司原理主義者たちは、眉をひそめたかもしれない。
「あんなものは、寿司ではない」と。
しかし、その自由で奔放な発想こそが、寿司という伝統的な食文化の裾野を大きく大きく広げたのだ。
白石義明がたった一人で始めたささやかな挑戦。
それは、いつしか日本の食文化における最も偉大な「民主化革命」の一つとなっていた。
寿司を、一部の金持ちや食通だけのものから解放する。
そして、すべての国民が等しく楽しめるエンターテイメントへと昇華させる。
彼がビール工場の片隅で見たあのささやかな閃き。
それが、これほどまでに大きな社会的な意味を持つことになるとは、彼自身想像もしていなかったに違いない。
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