回転寿司を発明した男の夢 第5話:「元禄寿司」開店
作者のかつをです。
第十一章の第5話をお届けします。
どんなに画期的な発明も、人々の「常識」という壁を乗り越えなければ受け入れられない。
今回は、開店当初の苦戦とそれを乗り越えた白石の、商売人としての機転を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1958年4月。
大阪府布施市(現在の東大阪市)の近鉄百貨店の一階。
そこに、世界で最初の回転寿司店がオープンした。
その名は、「廻る元禄寿司」。
白石義明は、店の軒先に大きな看板を掲げた。
「皿に乗って、高級な、うまい寿司が、回って、食べられます」
開店初日。
彼は、緊張と期待の入り混じった気持ちで客の入りを待っていた。
しかし、店の前を通りかかる人々は遠巻きに中の様子を訝しげに眺めるだけ。
誰も店の中に入ってこようとはしなかった。
「寿司が、回ってる……?」
「気味が悪いな。誰が握ったか分からんものを食えるかいな」
「それに、あの皿、誰が触ったか分からんぞ。汚いなあ」
当時の人々にとって、その光景はあまりにも奇妙で非衛生的で、そして不気味なものに映ったのだ。
白石の心に、焦りが募る。
このままでは、開店早々閉店の危機だ。
その時、彼は一つの起死回生のアイデアを思いつく。
「そうだ、サクラや! サクラを用意するんや!」
彼は、近所の懇意にしている工場の従業員たちに頭を下げて頼み込んだ。
「頼む! 昼飯時になったら、うちの店に来てくれんか! 寿司はワシが腹一杯おごるさかい!」
そして、昼時。
そのサクラの客たちが、どっと店になだれ込んできた。
彼らは楽しげにレーンを流れる寿司を、次々と手に取って頬張っていく。
その賑やかな光景に、店の前を通りかかった一般の客たちが足を止めた。
「なんや、あの店。流行ってるみたいやな」
「みんな、美味そうに食うとるなあ」
「よし、俺たちも入ってみるか」
人間の面白い心理。
行列のできている店には、つい並んでみたくなる。
一人、また一人と本物の客が店に入り始めた。
そして、彼らは回転寿司という新しいシステムの楽しさと合理性に、すぐに心を奪われていった。
目の前を次々と流れていく、美味しそうな寿司。
メニューを見ていちいち職人に注文する気後れもない。
自分の好きなものを好きなだけ、好きなタイミングで取ればいい。
そして、何より会計が明朗だ。
皿の色で値段が決まっており、食べた皿の数を数えるだけでいい。
「これは、画期的や!」
一度その楽しさを知った客は、次の日また別の客を連れてきた。
口コミは、あっという間に広がっていった。
「廻る元禄寿司」は、連日満員御礼の大繁盛店となった。
白石義明の10年越しの夢。
それは、大阪の片隅でついに花開いた。
彼は、寿司の歴史を永遠に変える第一歩を確かに踏み出したのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「サクラ作戦」は、実際に白石自身が語っている有名な逸話です。発明家であると同時に、優れた興行師でもあったのですね。
さて、大阪で大成功を収めた回転寿司。
その評判は、やがて日本中へと轟くことになります。
次回、「万博での大成功」。
回転寿司が一気に全国区へと駆け上がる、大きな転換点が訪れます。
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