回転寿司を発明した男の夢 第3話:皿はカーブを曲がれない
作者のかつをです。
第十一章の第3話をお届けします。
どんな偉大な発明家も必ず一度は大きな壁にぶつかります。
今回は、白石が直面した「カーブ」という難問と、そこからの意外な発想の転換を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
白石が思い描いていた未来の寿司屋。
それは、客席をぐるりと囲むようにコンベアが滑らかにカーブを描く、美しい光景だった。
しかし、現実は非情だった。
彼が試作したコンベアは、カーブに差し掛かると必ず問題を起こした。
ベルトの上をただ皿が滑るだけの単純な仕組み。
カーブでは外側と内側でベルトの進む距離が違う。
そのわずかな差が皿を不安定にさせ、ガタガタと音を立て、時には隣の皿とぶつかり脱線してしまうのだ。
「あかん……! これではまるで満員電車やないか!」
彼は、頭を抱えた。
チェーンを使ってみてはどうか。
自転車のチェーンのように、一つ一つの部品が滑らかに角度を変えるチェーンコンベア。
これなら、カーブもうまく曲がれるかもしれない。
しかし、チェーンには別の問題があった。
金属製のチェーンはガラガラと大きな音を立てる。
これでは、客が落ち着いて食事を楽しむことができない。
それに、潤滑油が寿司に垂れる危険性もあった。衛生的にも問題外だ。
ベルトでもダメ。チェーンでもダメ。
白石は、完全に行き詰まってしまった。
プロジェクトは、この「カーブ」というたった一つの問題によって頓挫しかけていた。
彼は毎晩眠れずに、天井を見つめながら考え続けた。
どうすれば皿は静かに、そして滑らかにカーブを曲がってくれるのか。
そんな苦悩の日々が何ヶ月も続いたある日のことだった。
彼は、ふと幼い頃に父親に連れて行ってもらった芝居小屋の光景を思い出していた。
回り舞台である。
役者や大道具を乗せた巨大な円盤が、ゆっくりと回転する。
「……円盤?」
その時、彼の頭の中で何かが閃いた。
「せや! ベルトやチェーンやない。もっと別のものを動かせばええんや!」
彼は、設計図の上に新しい絵を描き始めた。
それは、もはやベルトコンベアとは似ても似つかない、まったく新しい奇想天外な機械の姿だった。
誰もが不可能だと諦めかけていた問題。
その答えは、意外なほど身近な子供の頃の記憶の中に隠されていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「カーブの問題」は、回転寿司の開発において最大の難関だったと言われています。ここでの発想の転換がなければ、回転寿司は直線レーンだけの味気ないものになっていたかもしれません。
さて、回り舞台からヒントを得た白石。
彼が思い描いた新しいコンベアの姿とは、一体どんなものだったのでしょうか。
次回、「私財を投じた開発の日々」。
(※構成案のタイトルを一部変更し、物語の流れを優先します)
ついに、回転寿司の心臓部となる画期的なメカニズムが誕生します。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




