回転寿司を発明した男の夢 第1話:立ち食い寿司の限界
作者のかつをです。
本日より、第二部の幕開けとなる第十一章「ベルトコンベアの上の江戸前寿司」の連載を開始します。
今回の主役は、今や世界に誇る日本の食文化となった「回転寿司」。
その奇想天外なシステムの誕生秘話に迫ります。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
休日のショッピングモール。フードコートの一角は家族連れの楽しげな笑い声で満ち溢れている。
その中心にあるのは、カラフルな皿に乗った寿司がゆっくりと客席の前を回遊していく回転寿司のレーンだ。
子供たちが歓声を上げながら、流れてくるお目当ての皿に手を伸ばす。
私たちはその光景を当たり前のものとして享受している。
寿司が高級なハレの日のごちそうではなく、誰もが気軽に楽しめる日常のエンターテイメントであることを疑いもしない。
しかし、その皿が回るという奇想天外なアイデアが、かつて一人の男が抱いた素朴な悩みと大胆なひらめきから生まれたということを知る者は少ない。
これは、日本の国民食「寿司」に産業革命をもたらした、名もなき開拓者の痛快な逆転劇の物語である。
物語の始まりは戦後間もない1940年代後半の大阪。
復興の熱気の中、小さな立ち食い寿司店を営む一人の男がいた。
彼の名は、白石義明。
彼の店は安くてうまいと評判だった。
しかし、彼は日々の忙しさの中で一つの大きな壁にぶつかっていた。
「人手が、足りん……!」
客は次から次へとやってくる。
一人で寿司を握り、客の注文を聞き、会計をし、そして食器を洗う。
体はいくつあっても足りなかった。
人を雇えば人件費がかさみ、寿司の値段を上げなければならない。
それでは、安くてうまいという店の看板が廃れてしまう。
「もっと効率的に客をさばくことはできんもんか……」
「ワシが寿司を握ることに集中できれば、もっとうまい寿司をもっと多くの客に食わせてやれるのに……」
彼は来る日も来る日も、そのジレンマに頭を悩ませていた。
そんなある日、彼は息抜きのために訪れた吹田のビール工場で運命的な光景を目にすることになる。
薄暗い工場の中を黙々と流れ続ける、一本の黒い帯。
「ベルトコンベア」である。
その上を瓶ビールが整然と、しかし休むことなく運ばれていく。
その無駄のない美しい動きに、白石は釘付けになった。
彼の頭に、稲妻のようなひらめきが走った。
「……これや」
「このベルトの上に寿司を乗せて回せば、ええんやないか?」
それはまだ世界の誰も思いついたことがない、あまりにも突拍子もない荒唐無稽なアイデア。
しかし、そのアイデアこそが日本の外食産業の歴史を永遠に変えてしまう、偉大な革命の始まりの号砲だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十一章、第一話いかがでしたでしょうか。
立ち食い寿司屋の人手不足という切実な悩み、そしてビール工場のベルトコンベアとの運命的な出会い。すべての発明は既存のものの新しい「組み合わせ」から生まれる、という好例ですね。
さて、とんでもないアイデアをひらめいてしまった白石。
しかし、そのアイデアを現実の形にすることは想像を絶するほど困難な道のりでした。
次回、「ビール工場で見た閃き」。
(※構成案のタイトルを一部変更し、物語の流れを優先します)
彼の孤独な、そして泥臭い開発物語が始まります。
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