炊きたての味を届けたパックごはん革命 第4話:「サトウのごはん」誕生
作者のかつをです。
第九章の第4話をお届けします。
あまりにも革新的な技術は時に人々にすぐには信じてもらえない。
今回は、サトウ食品が製品の発売後に直面した思わぬ「誤解」との戦いを描きました。
誠実さが最後には必ず伝わる。そんなメッセージを感じていただければ幸いです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1988年。
5年という長い歳月と莫大な投資を経て、ついにサトウ食品工業から画期的な無菌包装米飯が発売された。
その名は、ストレートに「サトウのごはん」。
自社の名を冠したその製品には、米屋としての彼らのすべてのプライドが込められていた。
その味は、衝撃的だった。
電子レンジで2分。
温められた容器のフィルムを剥がすと、そこに現れたのはこれまでのどのパックごはんとも全く違う、本物の「炊きたて」だった。
米の一粒一粒がつやつやと輝き、立っている。
口に含めばふっくらとした絶妙な歯ごたえと、噛むほどに広がる米本来の豊かな甘み。
そして、あの不快なレトルト臭はどこにもない。
「……うまい。これは本当に、今炊いたごはんだ」
そのあまりにも高い品質は、食べた人々を驚かせ、そして感動させた。
しかし、その感動は同時に一つの奇妙な「誤解」を生み出すことになる。
「こんなに美味しいなんて、おかしい」
「何か、特別な添加物が入っているに違いない」
「保存料を大量に使っているんじゃないか?」
消費者から、そんな声が寄せられ始めたのだ。
「無菌」という目に見えない技術の価値は、なかなか人々には伝わらなかった。
彼らにとって、常温で何ヶ月も保存できる食品とは「保存料の塊」というイメージがあまりにも強固に染み付いていたのだ。
サトウ食品は、この誤解を解くため粘り強い啓蒙活動を続けなければならなかった。
テレビCMや新聞広告で、繰り返し訴えた。
「サトウのごはんは、保存料を一切使用していません」
「無菌のクリーンルームで炊き上げパックしているから、美味しさが長持ちするのです」
社長の佐藤功も、自ら広告塔となった。
柔和な、しかし自信に満ちた表情で彼はカメラに向かって語りかけた。
「米屋が、炊きたてにこだわりました」
その実直で誠実なメッセージは、少しずつ、しかし確実に人々の心を溶かしていった。
「添加物じゃなくて、技術だったのか」
「だから、あんなに美味しいんだな」
一度その秘密を知った人々は、サトウのごはんの最も熱心なファンになっていった。
本物の味とそれを支える本物の技術。
その誠実なものづくりが、ついに消費者の信頼を勝ち取った瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「サトウのごはん」のパッケージの裏には、今も「添加物(保存料・酸味料)は一切使用しておりません」とはっきりと書かれています。これは、発売当初の苦い経験から生まれた彼らの、消費者への誠実な約束の証なのです。
さて、ついにその価値を正しく認められた「サトウのごはん」。
その白い革命は、日本の食卓に何をもたらしたのでしょうか。
次回、「米屋のプライドが、未来を拓く(終)」。
第九章、感動の最終話です。
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