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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:食卓の革命編 ~家庭の「当たり前」が生まれた瞬間~
5/24

昆布と博士と魔法の粉 第5話:「味の素」の誕生

作者のかつをです。

第5話をお届けします。

 

どんなに画期的な製品でも、その価値が伝わらなければ、ただのガラクタになってしまう。

今回は、製品を「売る」ことの難しさと、それを乗り越えようとした、黎明期のマーケティングの物語です。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

1909年。

幾多の困難を乗り越え、ついに、世界初のうま味調味料が完成した。

 

池田菊苗と鈴木三郎助は、その製品に、願いを込めて名前を付けた。

「味の素」。

味の精髄、という意味だ。

 

美しいガラス瓶に詰められた、真っ白な粉。

それは、彼らの夢の結晶だった。

 

しかし、その結晶は、発売当初、まったく売れなかった。

 

人々にとって、「うま味」という概念そのものが、未知のものだったのだ。

店頭に並んだ「味の素」を前に、客たちは、首を傾げるばかりだった。

 

「これは、一体何だい? 砂糖か? 塩か?」

「どうやって使うものなんだ?」

 

当時の人々にとって、調味料とは、醤油、味噌、塩、砂糖。それだけだった。

料理に「振りかける白い粉」は、あまりにも得体が知れなかったのだ。

 

鈴木三郎助は、頭を抱えた。

しかし、彼は諦めるような男ではなかった。

 

「製品の価値が伝わらないのなら、こちらから伝えに行くまでだ」

 

ここから、鈴木の天才的な商才が、本領を発揮する。

 

彼はまず、新聞に、大々的な広告を打った。

「家庭の福音」「滋養に富む高尚な調味料」といったキャッチコピーで、人々の興味を引く。

 

さらに、チンドン屋を雇い、派手な衣装で町を練り歩かせた。

「味の素」のロゴが入った広告宣伝カーを走らせ、人々の度肝を抜いた。

 

最も効果的だったのは、料理講習会だった。

彼は、割烹着姿の女性たちを各地に派遣し、主婦たちを相手に、「味の素」を使った料理の実演を行ったのだ。

実際に、その味を体験してもらうことで、うま味の価値を、直接、人々の舌に訴えかけた。

 

それは、現代のマーケティングの、まさに原型ともいえる手法だった。

 

一人、また一人と、「味の素」の価値を理解する人が、増えていく。

口コミが、じわじわと広がっていく。

 

それは、まだ小さなさざ波だった。

しかし、その波が、やがて日本の食卓全体を飲み込む、大きなうねりになることを、鈴木は確信していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

チンドン屋や広告宣伝カーを使ったPRは、当時としては、非常に画期的なものでした。また、女性の社会進出がまだ珍しかった時代に、割烹着姿の「セールスレディ」を組織したのも、鈴木三郎助の先見の明と言えるでしょう。

 

さて、地道な努力の末、少しずつ認知され始めた「味の素」。

その白い粉は、やがて、日本の食卓の風景を、永遠に変えることになります。

 

次回、「世界を変えた第5の味覚(終)」。

第一章、感動の最終話です。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!


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この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


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