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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:食卓の革命編 ~家庭の「当たり前」が生まれた瞬間~
4/21

昆布と博士と魔法の粉 第4話:工業化への高い壁

作者のかつをです。

第4話です。

 

一人の科学者の発見が、いかにして「産業」になっていくのか。

今回は、天才的な実業家との出会いと、ラボから工場へとスケールアップする際の、壮絶な苦労を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

研究室での発見を、製品として世に送り出す。

そのためには、池田菊苗一人では、どうすることもできなかった。

彼には、事業を興すための、強力なパートナーが必要だった。

 

彼が白羽の矢を立てたのは、鈴木製薬所(後の味の素株式会社)の創業者、鈴木三郎助だった。

ヨードの製造で財を成した、当時気鋭の、天才的な実業家だ。

 

池田は、鈴木に熱っぽく語った。

「うま味」という新味覚の可能性と、それが日本の食生活をいかに豊かにするか、という壮大な夢を。

 

鈴木は、その場で即決した。

「面白い。博士、その夢に乗りましょう」

 

ここに、科学者と実業家という、最強のタッグが誕生した。

 

しかし、工業化への道は、想像を絶するほど険しかった。

昆布から抽出する方法では、コストがかかりすぎて、到底、製品にはならない。

 

池田が考え出したのは、小麦に含まれるタンパクグルテンを、塩酸で分解してグルタミン酸を取り出す、という方法だった。

 

理論上は、可能だ。

しかし、それを巨大な工場のラインで、安全に、かつ安定して行うことは、まったく別の問題だった。

 

開発チームは、塩酸による加水分解の工程で、壁にぶつかった。

塩酸は、非常に危険な劇薬だ。装置はすぐに腐食し、有毒なガスが発生する。

爆発寸前の事故も、一度や二度ではなかった。

 

「こんな危険な方法、本当に続けられるのか……」

 

開発チームに、諦めの空気が漂い始める。

その時、彼らを鼓舞したのは、実業家である鈴木の、腹の据わった一言だった。

 

「失敗を恐れるな。私が全責任を負う。君たちは、ただ、博士の理論を信じて、前に進めばいい」

 

その言葉に、技術者たちは、再び顔を上げた。

池田が示した、確かな理論。

鈴木が示した、揺ぎない覚悟。

 

二つの歯車が、固く噛み合った。

彼らは、危険な塩酸を御する、新たな製造法を確立するため、再び、困難な課題へと立ち向かっていったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

鈴木三郎助の「私が全責任を負う」という言葉は、実際に残されているそうです。こうした経営者の覚悟がなければ、どんな偉大な発明も、世に出ることはなかったのかもしれませんね。

 

さて、ついに工業化への道筋が見えてきた「うま味」調味料。

いよいよ、製品として、その姿を現します。

 

次回、「『味の素』の誕生」。

しかし、完成した製品は、すぐには世の中に受け入れられませんでした。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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