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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:食卓の革命編 ~家庭の「当たり前」が生まれた瞬間~
4/70

世界を変えた「うま味」の発見 第4話:工業化への高い壁

作者のかつをです。

第4話です。

 

一人の科学者の発見がいかにして「産業」になっていくのか。

今回は天才的な実業家との出会いと、ラボから工場へとスケールアップする際の壮絶な苦労を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

研究室での発見を製品として世に送り出す。

そのためには池田菊苗一人ではどうすることもできなかった。

彼には事業を興すための強力なパートナーが必要だった。

 

彼が白羽の矢を立てたのは、鈴木製薬所(後の味の素株式会社)の創業者、鈴木三郎助だった。

ヨードの製造で財を成した、当時気鋭の天才的な実業家だ。

 

池田は鈴木に熱っぽく語った。

「うま味」という新味覚の可能性と、それが日本の食生活をいかに豊かにするかという壮大な夢を。

 

鈴木は、その場で即決した。

「面白い。博士、その夢に乗りましょう」

 

ここに、科学者と実業家という最強のタッグが誕生した。

 

しかし、工業化への道は想像を絶するほど険しかった。

昆布から抽出する方法ではコストがかかりすぎて、到底製品にはならない。

 

池田が考え出したのは、小麦に含まれるタンパクグルテンを塩酸で分解してグルタミン酸を取り出すという方法だった。

 

理論上は可能だ。

しかし、それを巨大な工場のラインで安全にかつ安定して行うことは、まったく別の問題だった。

 

開発チームは、塩酸による加水分解の工程で壁にぶつかった。

塩酸は非常に危険な劇薬だ。装置はすぐに腐食し、有毒なガスが発生する。

爆発寸前の事故も一度や二度ではなかった。

 

「こんな危険な方法、本当に続けられるのか……」

 

開発チームに諦めの空気が漂い始める。

その時、彼らを鼓舞したのは実業家である鈴木の腹の据わった一言だった。

 

「失敗を恐れるな。私が全責任を負う。君たちはただ博士の理論を信じて前に進めばいい」

 

その言葉に技術者たちは再び顔を上げた。

池田が示した確かな理論。

鈴木が示した揺るぎない覚悟。

 

二つの歯車が固く噛み合った。

彼らは危険な塩酸を御する新たな製造法を確立するため、再び困難な課題へと立ち向かっていったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

鈴木三郎助の「私が全責任を負う」という言葉は、実際に残されているそうです。こうした経営者の覚悟がなければどんな偉大な発明も世に出ることはなかったのかもしれませんね。

 

さて、ついに工業化への道筋が見えてきた「うま味」調味料。

いよいよ製品としてその姿を現します。

 

次回、「『味の素』の誕生」。

しかし、完成した製品はすぐには世の中に受け入れられませんでした。

 

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