カレー粉国産化に生涯を捧げた男 第7話:あなたの家の、黄色い缶(終)
作者のかつをです。
第六章の最終話です。
一人の開拓者の生涯をかけた挑戦がいかにして現代の私たちの当たり前の食卓に繋がっているのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、カレーの物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
山崎峯次郎がその生涯を閉じた後も、彼が灯した黄色い魔法の光は消えることはなかった。
彼の会社はカレーだけでなく、コショウやワサビ、様々な香辛料を日本の食卓に届け続け、人々の暮らしを豊かに彩り続けた。
そして、彼がすべてを失った灰燼の中から生み出したあの「S&Bの赤缶」。
その缶は今なおほとんど姿を変えることなく、スーパーマーケットの棚に静かに、しかし誇らしげに並び続けている。
それはもはや単なる商品ではない。
日本のカレーの歴史そのものを象徴する、一つのアイコンなのだ。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのキッチン。
一人の父親が子供たちにカレーライスを作っている。
彼は隠し味に、棚の奥からあの赤い缶を取り出した。
蓋を開けるとふわりと懐かしく、そして食欲をそそるスパイスの香りが立ち上る。
彼は、知らない。
今、自分が当たり前のように振りかけたその黄色い粉が、かつて一人の男が日本の家庭の笑顔を夢見てスパイスの迷宮をさまよい続けた、その道のりのゴールだということを。
関東大震災の絶望の淵から不屈の精神で立ち上がった、開拓者の魂の結晶だということを。
歴史は、古い書物の中だけにあるのではない。
私たちのすぐそばのこのキッチンの棚の上に、確かに息づいているのだ。
「お父さん、今日のカレーなんだかいつもよりすごく美味しいね!」
子供の屈託のない笑顔。
それこそが、山崎峯次郎が生涯をかけて見たかった夢の続きなのかもしれない。
(第六章:金曜日の黄色い魔法 ~カレー粉国産化に生涯を捧げた男~ 了)
第六章「金曜日の黄色い魔法」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
S&B食品の社名は当初の「日賀志屋」の頭文字「H」と「S」を、後に「SUN&BIRD」の「S&B」に改めたという経緯があります。まさに、会社の歴史そのものがこのロゴに刻まれているのですね。
さて、国民食の王様、カレーの物語でした。
次なる物語はもう一つの日本の味の原点「出汁」に、革命をもたらした人々の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第七章:鰹の魂、ここにあり ~顆粒に風味を閉じ込めた「ほんだし」開発秘話~**
家庭で出汁を取る習慣が失われつつあった時代。
お湯を注ぐだけで本格的な鰹だしの風味が味わえる「魔法の粉」は、いかにして生まれたのか。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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