宇宙食技術が生んだ「3分間のごちそう」 第3話:溶けるジャガイモ、破裂する袋
作者のかつをです。
第四章の第3話、いかがでしたでしょうか。
アイデアを現実の製品にする過程で、必ず立ちはだかる「技術の壁」。
今回は開発チームが直面した具体的で、そして過酷な失敗の数々を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
開発チームの前に立ちはだかった最大の敵。
それは、「レトルト殺菌」そのものだった。
袋の中の菌を完全に死滅させるためには、摂氏120度以上の高温で高圧をかけながら長時間加熱し続けなければならない。
それは家庭のキッチンとは、全く次元の違う過酷な調理環境だった。
最初の試作品は、悲惨な結果に終わった。
殺菌釜から出てきたパウチを開けてみると、中身はもはやカレーとは呼べない茶色いペースト状の何かになっていた。
「ジャガイモが……溶けてる」
カレーの主役であるはずのジャガイモやニンジンといった具材が、高温高圧に耐えきれず煮崩れて跡形もなくなってしまっていたのだ。
さらに、深刻な問題が彼らを襲う。
殺菌釜の中でパウチが次々と「破裂」してしまうのだ。
加熱によって袋の中の空気が膨張し、その圧力にフィルムの接着部分が耐えきれずに裂けてしまう。
釜を開けるたびに内部は飛び散ったカレーで、悲惨な状態になっていた。
「これでは、製品にならない……」
研究室には、絶望的な空気が漂った。
具材が溶けず、なおかつ破裂しない。
そんな矛盾した要求を、どうやってクリアすればいいのか。
彼らはまずジャガイモとの戦いにすべてを注いだ。
日本中から、あらゆる品種のジャガイモを取り寄せた。
メークイン、男爵、きたあかり……
それぞれを同じ条件でレトルト殺菌し、煮崩れの度合いを丹念に比較していく。
それは、気の遠くなるような地道な作業だった。
研究室の床は、煮崩れたジャガイモの残骸で埋め尽くされた。
「カレーにジャガイモを入れるのは、もう諦めた方がいいんじゃないか」
そんな弱音さえ聞こえ始めた。
しかし、リーダーは首を縦には振らなかった。
「日本のカレーにジャガイモは不可欠だ。ここで妥協したら、この製品は絶対に成功しない」
彼のその揺るぎない一言が、チームを再び奮い立たせた。
彼らはまだ諦めてはいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
レトルト殺菌の技術はもともとナポレオンの時代に発明された「瓶詰」の技術がその原型となっています。歴史は意外なところで繋がっているものですね。
さて、煮崩れるジャガイモと破裂する袋。
この二つの巨大な壁を開発チームは、どうやって乗り越えていったのでしょうか。
次回、「3年間の試行錯誤」。
彼らの粘り強い挑戦が、ついに実を結びます。
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