宇宙食技術が生んだ「3分間のごちそう」 第2話:誰でもシェフになれるカレーを
作者のかつをです。
第四章の第2話をお届けします。
なぜ最初のレトルト食品は「カレー」だったのか。
今回はその開発の動機と当時の日本の食卓事情を描きました。
すべての発明の裏には「誰かの悩みを解決したい」という、強い思いがあるのかもしれませんね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
アメリカから帰国した大塚グループの社員は、持ち帰った宇宙食技術の可能性を熱っぽく語った。
「常温で長期保存できる袋詰めの食品。これは必ず日本の食生活を変えます」
経営陣は、そのアイデアに未来を見た。
そして、プロジェクトチームが結成される。
最初の議題はシンプルだった。
「では、その魔法の袋に何を入れるか?」
様々な料理が候補に挙がった。
しかし、チームの意見はすぐに一つにまとまっていった。
「カレーだ。カレーしかない」
当時、カレーライスはすでに日本の国民食としての地位を確立しつつあった。
子供から大人まで、誰もが大好きなごちそうだ。
しかし、その調理には大きな手間と時間がかかった。
市販のカレールウは存在したものの、タマネギを飴色になるまで炒め、肉や野菜を煮込み、アクを取り、焦げ付かないように鍋の番をしなければならない。
そして、家庭ごとに味はバラバラだった。
隠し味に醤油を入れたりソースを入れたり。
それは「お母さんの味」という温かい響きを持つ一方で、料理が苦手な人にとっては失敗のリスクが付きまとう悩みの種でもあった。
開発チームは大きな目標を掲げた。
「誰でも、いつでも、どこでも、失敗なく美味しいカレーが食べられるようにする」
お湯で温めるだけで、まるで今作りたてのような本格的なカレーが味わえる。
もしそんな製品が実現できれば、それは日本の食卓に革命を起こすに違いない。
料理が苦手な人でも、一人暮らしの学生でも、忙しいお母さんでも、誰もが一流のシェフになれるのだ。
宇宙食技術と国民食カレー。
ここに、運命の出会いが果たされた。
「よし、やろう。世界で最初の家庭用レトルトカレーを作るんだ」
開発チームの若き研究者たちの目が輝いていた。
彼らはまだ自分たちがこれから挑むことになる、長く険しい試練の道のりを知る由もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
カレーはご飯さえあれば一食が完結するという点でも、最初の製品として非常に優れていました。まさに、狙うべくして狙った市場だったのです。
さて、壮大な目標を掲げ開発に乗り出したチーム。
しかし、彼らの前に高温高圧の「レトルト殺菌」という巨大な壁が立ちはだかります。
次回、「溶けるジャガイモ、破裂する袋」。
開発チームの悪戦苦闘が始まります。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




