宇宙食技術が生んだ「3分間のごちそう」 第1話:アポロ計画と宇宙食
作者のかつをです。
本日より、第四章「アポロの味、お茶の間へ」の連載を開始します。
今回の主役は日本の国民食「レトルトカレー」。
その誕生の裏に壮大な宇宙開発競争があったという、驚きの物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
スーパーマーケットの棚に色とりどりの箱がずらりと並んでいる。
カレー、パスタソース、中華丼、牛丼。
箱の中身はアルミのパウチに詰められた、調理済みの料理たち。
私たちはその箱を手に取り家に帰り、熱湯の中に沈める。
わずか数分後には温かい一皿が食卓に並ぶ。
その手軽さを、もはや誰も不思議に思わない。
しかし、その銀色の袋のルーツがはるか宇宙空間にあることを知る者は決して多くない。
これは、人類の宇宙への挑戦が生み出した最先端技術が巡り巡って、日本の家庭のカレーになったという壮大な物語である。
物語は1960年代、世界が米ソの宇宙開発競争に沸いていた時代に遡る。
ケネディ大統領は高らかに宣言した。
「我が国は60年代が終わるまでに人間を月に着陸させ、無事に地球に帰還させるという目標を達成することを誓う」
アポロ計画。
その巨大なプロジェクトの中で、一つの重要な研究が進められていた。
「宇宙食」の開発である。
無重力空間で長期間保存でき、安全でかつ栄養のある食事を宇宙飛行士にどうやって提供するのか。
NASAは、その難題に国家の威信をかけて取り組んでいた。
その成果の一つが、缶詰に代わる新しい食品包装技術だった。
光も空気も水も通さない、特殊なフィルムの袋。
その袋に料理を詰め、高温高圧で完全に殺菌する。
そうすれば常温で、何年もの間食品を保存できるのだ。
その最先端技術の噂は、遠く日本の企業人の耳にも届いていた。
当時、大塚グループの社員としてアメリカを視察していた一人の男がその技術に衝撃を受ける。
「この袋……。この技術を使えば日本で、何かとんでもないことができるかもしれない」
彼の頭の中に、一つの国民食の姿がぼんやりと浮かんでいた。
宇宙飛行士のための特別な食事。
その技術がやがて日本中のお母さんを助けることになる「3分間のごちそう」を生み出すとは、まだ誰も知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第四章、第一話いかがでしたでしょうか。
宇宙食と家庭のカレー。まったく繋がりのないように思える二つが、歴史の偶然の中で劇的な出会いを果たします。
さて、最先端技術の可能性に気づいた大塚グループ。
彼らはなぜ数ある料理の中から、「カレー」を選んだのでしょうか。
次回、「誰でもシェフになれるカレーを」。
その開発の動機には、当時の日本の食卓が抱えるある課題がありました。
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