讃岐うどん、観光資源化への道 第4話:釜玉という発明
作者のかつをです。
第二十六章の第4話をお届けします。
客の持ち込みから生まれた新メニュー。
自由でおおらかな讃岐の風土が生んだ傑作、「釜玉うどん」の誕生秘話を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
うどん巡礼の聖地の一つとして知られるようになった「山越うどん」。
山あいの静かな場所にあるこの店には、連日長蛇の列ができていた。
ある日、常連客の一人が自分の畑で採れた新鮮な生卵をポケットに入れてやってきた。
「おばちゃん、この卵、うどんにかけて食ってええか?」
本来、讃岐うどんは茹でた麺を水で締めてコシを出すのが一般的だ。
しかし、その客は釜から揚げたばかりの熱々の麺(釜抜き麺)を丼に入れてもらい、そこに生卵を割り落とし、醤油を回しかけてかき混ぜた。
熱々の麺の熱で卵が半熟状になり、とろりと麺に絡みつく。
それはまるで和風のカルボナーラのような、濃厚でまろやかな味わいだった。
「……こりゃあ、美味い!」
その客の驚きの声を聞きつけ、周囲の客たちも真似をし始めた。
「俺も卵持ってくるわ」
「私もやってみたい」
あまりの評判に、店主は卵を店で用意してメニュー化することを決めた。
これが、今や讃岐うどんの代名詞ともなった「釜玉うどん」の誕生である。
釜玉うどんの登場は、讃岐うどんブームをさらに加速させた。
それまでのうどんは「出汁」で食べるのが基本だったが、釜玉は「麺そのものの味」と「食感」をダイレクトに楽しむ料理だ。
水で締めない独特のモチモチとした食感(これを讃岐では「あつあつ」とは違う「ぬめり」のあるコシと呼ぶ)は、県外の人々にとって新鮮な驚きだった。
「うどんって、こんなに表情が違うのか」
店ごとに違う麺の太さ、コシの強さ、そして食べ方のバリエーション。
巡礼者たちは、それぞれの店の個性を比較し、自分好みの「マイ・ベスト・うどん」を探すことに熱中した。
インターネット掲示板やブログの普及も追い風となった。
「あそこの店はS級だ」「いや、あっちの剛麺こそ最強だ」
ネット上では日々うどん談義が交わされ、情報は瞬く間に拡散されていった。
田尾和俊たちが蒔いた種は、ネット社会という新しい土壌で爆発的に開花し、もはや誰にも止められない巨大なムーブメントとなっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
釜玉うどんは、現在では全国のうどんチェーン店でも定番メニューになっていますが、そのルーツはこんな素朴なやり取りにあったのです。
さて、空前のうどんブーム。
しかし、光があれば影もあります。
観光客の急増は、地元の人々の生活に思わぬ摩擦を生むことになります。
次回、「ブームの光と影」。
熱狂の裏側で起きていた問題に迫ります。
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