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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第2部:外食文化の設計者編 ~レストランの「仕組み」を創った人々~
153/155

讃岐うどん、観光資源化への道 第1話:日常に潜む秘境

作者のかつをです。

 

本日より新章、第二十六章「ぬるい風呂とコシのないうどん」の連載を開始します。

今回の主役は、今や国民食となった「讃岐うどん」。

しかしそのブームの火付け役は、料理人ではなく、ペンとカメラを持った編集者たちでした。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2026年、香川県。

 

週末ともなれば、県外ナンバーの車が田んぼの中の細い農道を列をなして走っている。

彼らが目指すのは、看板さえ出ていない古びた民家や、ビニールハウスのような簡素な建物だ。

どんぶりを片手に並ぶ人々の顔は、まるで宝探しをする子供のように輝いている。

 

「あった! ここだ!」

「本当にこんなところでやってるの?」

 

彼らが求めているのは、一杯わずか数百円のうどん。

しかしそれは単なる食事ではない。

店を探し当て、独自のルールに従って注文し、青空の下で麺をすする。

その一連の体験こそが、現代における「巡礼」にも似たエンターテイメントとなっているのだ。

 

香川県が「うどん県」としてその名を全国に轟かせ、年間何百万人もの観光客がうどんを目当てに訪れるようになった現在。

私たちはこの光景をごく自然なものとして受け入れている。

 

しかし、ほんの三十数年前まで、うどんは香川県民にとってあまりにも当たり前すぎて、誰も見向きもしない「空気」のような存在だった。

安くて早くて、小腹が空いたら食べるもの。

わざわざ遠くから食べに来るような代物ではないし、ましてや観光資源になどなり得ない。

地元の人間でさえ、そう信じて疑わなかった。

 

そんな退屈な日常の中に潜む「ワンダーランド」を発見し、それを極上のエンターテイメントとして世に知らしめた男たちがいた。

地元の弱小タウン誌の編集長と、彼が率いた風変わりな探検隊「麺通団」である。

 

物語は1980年代後半、バブル景気に沸く日本の中で、どこか取り残されたようなのどかな香川の風景から始まる。

 

当時、香川県高松市にある小さな出版社で、タウン誌「TJ Kagawa」の編集長を務めていた田尾和俊は頭を抱えていた。

創刊したばかりの雑誌は売れ行きが芳しくなく、毎月の企画を埋めるのにも四苦八苦していた。

 

「何か、面白いネタはないか……」

 

おしゃれなカフェもなければ、若者が集まるデートスポットも少ない。

都会の真似事をしたような記事を載せても、誰も読んでくれない。

 

そんなある日、彼は編集部員たちとの雑談の中で、奇妙な噂を耳にする。

 

「そういえば、山の奥に看板も暖簾も出ていないのに、めちゃくちゃ美味いうどんを食わせる製麺所があるらしいですよ」

「丼を持って行かないと食わせてもらえない店があるとか」

「ネギを自分で畑から取ってくる店があるらしい」

 

それは、一般的な「飲食店」の常識からはかけ離れた、ミステリアスで怪しげな情報ばかりだった。

しかし田尾の直感が、ピクリと反応した。

 

「……それだ」

 

グルメガイドに載るような綺麗な店ではない。

地元の人しか知らない、いや、地元の人さえもあまり知らないようなディープなうどん屋。

それを探検隊のように探し出し、レポートしたら面白いのではないか。

 

それは単なるグルメ記事ではなかった。

日常の中に埋もれていた「非日常」を掘り起こす、冒険の始まりだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二十六章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

「うどん県」という言葉が定着するずっと前、香川のうどんはあくまで生活の一部でした。それを「レジャー」に変えた視点の転換こそが、この物語の核心です。

 

さて、怪しい噂を頼りに取材を始めた田尾編集長。

彼らが足を踏み入れたのは、予想をはるかに超えるディープな世界でした。

 

次回、「製麺所という迷宮」。

看板のない店を探す旅が始まります。

 

ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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