たこ焼きを「おやつ」から「食事」に変えた男たち 第5話:赤い舟皿の記憶(終)
作者のかつをです。
第二十五章の最終話です。
一つのファストフードがいかにして国民食となり、私たちの日常に溶け込んでいったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、たこ焼きの物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
築地銀だこが起こした革命から四半世紀以上が過ぎた。
今やたこ焼きは、日本の食文化になくてはならない存在となっている。
スーパーの冷凍食品売り場に行けば、銀だこ監修の冷凍たこ焼きが並んでいる。
コンビニエンスストアのホットスナックコーナーでも、たこ焼きは定番の人気商品だ。
家庭にはたこ焼き器が普及し、週末には家族や友人が集まって「タコパ(たこ焼きパーティー)」を開くことが当たり前の光景となった。
たこ焼きを「食事」として認知させ、その楽しさを全国に広めた銀だこの功績は計り知れない。
彼らは今も進化を続けている。
期間限定のユニークなトッピングや、海外への店舗展開。
「ZEPPIN(絶品)」シリーズのようなプレミアムなたこ焼きの開発。
しかし、どれだけメニューが増えても、どれだけ店舗が広がっても、変わらないものがある。
それは、ガラス張りの向こうで職人が汗を流し、真剣な眼差しでたこ焼きと向き合うあの姿だ。
そして、仕上げに油をかけ、カリッとした音と共に焼き上げるあの瞬間だ。
……2026年、東京。
物語の冒頭に登場した、新宿の銀だこ。
一人の若いサラリーマンが、仕事を終えてハイボール酒場のカウンターに座っている。
目の前には、ソースとマヨネーズがかかった熱々のたこ焼きが8個、赤い舟皿に乗って運ばれてきた。
彼は、知らない。
今、自分が一日の疲れを癒すために頬張っているその一粒が、かつて一人の男が移動販売車の中で抱いた「もっと美味しいたこ焼きを」という執念から生まれたものであることを。
油で揚げるという常識破りの発想と、ガラス張りの劇場という演出が、日本の路地裏の風景を変えてしまったということを。
歴史は、遠い昔の出来事だけではない。
私たちの、この熱くて美味しい一皿の中に、確かに息づいているのだ。
彼は、カリッとした表面を噛み破り、中から溢れるトロトロの生地とタコの旨味を味わう。
そして冷たいハイボールを一口。
「くぅー、うまい!」
その何気ない一言こそが、開拓者たちが生涯をかけて追い求めた最高の報酬なのだろう。
天かすと紅生姜、そしてソースとマヨネーズが奏でる協奏曲は、今夜も日本のどこかで誰かを笑顔にしている。
(第二十五章:天かすと紅生姜の協奏曲 ~たこ焼きを「おやつ」から「食事」に変えた男たち~ 了)
第二十五章「天かすと紅生姜の協奏曲」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
銀だこのたこ焼きは、時間が経っても美味しいように計算されていますが、やはり焼きたての「カリとろ」感は格別です。この物語を読んで、たこ焼きが食べたくなっていただけたら幸いです。
さて、粉もんの次は「麺」の物語です。
次なる物語は、四国の小さな県が起こした奇跡の観光ブームの裏側に迫ります。
次回から、新章が始まります。
**第二十六章:ぬるい風呂とコシのないうどん ~讃岐うどん、観光資源化への道~**
地元の人しか知らなかった安くて旨い田舎のうどんが、いかにして全国の人々を熱狂させる観光資源となったのか。
一冊の本と、足で稼いだ情報が起こした奇跡を描きます。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第二十六章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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