たこ焼きを「おやつ」から「食事」に変えた男たち 第3話:ガラス張りの劇場
作者のかつをです。
第二十五章の第3話をお届けします。
「シズル感」という言葉がありますが、銀だこの店舗はまさにそのシズル感の塊です。
今回は、調理プロセスをショーとして見せることで付加価値を生み出した、卓越した演出力に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
佐瀬守男が目指したのは、単に美味しいたこ焼きを売る店ではなかった。
客が並んでいる間もワクワクし、食べるまでの過程そのものを楽しめる「エンターテイメント」の場を作りたかったのだ。
当時のたこ焼き屋といえば、屋台や奥まった厨房で作られたものを客に手渡すのが一般的だった。
しかし彼は、その製造工程をすべて「見せる」ことにした。
店の前面を全面ガラス張りにし、通りを歩く人々から鉄板の上でたこ焼きが踊る様子が丸見えになるように設計したのだ。
「実演販売」である。
職人が目にも留まらぬ速さで千枚通しを操り、生地を流し込み、具材を撒き、くるくると回していく。
そのリズミカルな動きは、まるでショーのようだった。
そして仕上げの油をかけた瞬間に立ち上る白い湯気と、ジュワッという食欲をそそる音。
それは、道行く人々の五感を強烈に刺激した。
「うわ、すごい手さばき!」
「美味しそう……」
ガラス越しに見えるライブ感溢れる光景に、大人も子供も思わず足を止める。
そして吸い寄せられるように列に並んでしまう。
さらに彼は、店内の衛生管理も徹底した。
それまでの「粉もん屋」につきものだった油汚れや粉っぽさを排除し、常にピカピカに磨き上げられた清潔な厨房を客に見せたのだ。
「オープンキッチンはごまかしが効かない。だからこそ、客は安心して口にできる」
その戦略は的中した。
1997年、群馬県のスーパーの中にオープンした一号店は、開店直後から長蛇の列を作った。
客たちは自分の注文したたこ焼きが目の前で焼き上がっていく様子を、固唾を呑んで見守る。
そして焼き上がったばかりの、火傷しそうなほど熱いたこ焼きを受け取った時の高揚感。
それは、作り置きの惣菜を買うのとは全く違う、特別な体験だった。
「築地銀だこ」というネーミングにも、彼の戦略が込められていた。
魚河岸の活気と新鮮な素材を連想させる「築地」。
そして、銀座に店を出せるような立派な店になりたいという願いを込めた「銀」。
片田舎のスーパーの一角から始まったその店は、その名の通り、やがて東京のど真ん中へと進出していくことになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ガラス張りの店舗は、働くスタッフにとっても「常に見られている」という適度な緊張感を生み、サービスの質を向上させる効果もあったそうです。一石二鳥の戦略ですね。
さて、地方での成功を足がかりに、銀だこはいよいよ東京進出を果たします。
しかし、大都会の激戦区で彼らを待っていたのは、予想を超える熱狂でした。
次回、「中野の行列」。
たこ焼きがブームを超えて文化になる瞬間です。
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