一人の男が夢見たマヨネーズ革命 第2話:日本人の体格を向上させたい
作者のかつをです。
第三章の第2話をお届けします。
一人の青年が抱いた夢がいかにして「使命」へと変わっていったか。
今回は中島董一郎の強い動機と、その裏にあった社会的な背景を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
アメリカから帰国した中島董一郎が目の当たりにしたのは、欧米とのあまりにも大きな「体格差」という現実だった。
当時の日本はまだ貧しかった。
日々の食事は米と質素な漬物や味噌汁が中心。
肉や卵といったタンパク質や脂質は、庶民にとってはまだまだ貴重なごちそうだった。
子供たちは小柄で、どこかひ弱に見える。
中島はアメリカで見た健康的な子供たちの姿を思い出していた。
そして、強い使命感に駆られた。
「このままではいけない。食の力で日本人の体格をもっと向上させなければ」
彼の脳裏にはあの白いソース、マヨネーズの姿がはっきりと浮かんでいた。
卵と油から作られる栄養の塊。
あれを日本の食卓に普及させることができれば、きっと未来の子供たちの健やかな成長に繋がるはずだ。
彼の夢は単なるビジネスではなかった。
それは国家の未来を憂う、ささやかなしかし熱い愛国心の発露でもあったのだ。
「よし、作ろう。日本人のための、日本人による日本一のマヨネーズを」
彼は役人の道を捨て、自ら事業を興すことを決意する。
私財を投じ、小さな工場を立ち上げた。
しかし、開発は困難を極めた。
アメリカで食べたあの味をどうやって再現するのか。
レシピも製造機械も何一つない。すべてが手探りの状態からのスタートだった。
彼は毎晩台所に立った。
卵を割り油を注ぎ、酢を加え、ひたすら泡立て器でかき混ぜる。
油が分離してしまったり味が決まらなかったり。
失敗したマヨネーズの瓶が何本も、何本も積み上がっていく。
それでも、彼の心は少しも折れなかった。
彼の目には自分の作るマヨネーズを美味しそうに食べる、未来の日本の子供たちの笑顔がはっきりと見えていたからだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
中島は「日本人の体格向上」を生涯のテーマとしていたそうです。その思いはマヨネーズだけでなく彼が後に手がけることになる、様々な事業の根底に流れ続けていました。
さて、試行錯誤を繰り返す中島。
彼はやがてアメリカのマヨネーズを超える、ある「こだわり」にたどり着きます。
次回、「贅沢な、卵黄だけの約束」。
日本で愛されるあのマヨネーズの味の秘密が、ついに明かされます。
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