たこ焼きを「おやつ」から「食事」に変えた男たち 第2話:油で揚げるという革命
作者のかつをです。
第二十五章の第2話をお届けします。
賛否両論を巻き起こしながらも、確実にファンを増やしていった「揚げ焼き」スタイル。
今回は、その画期的な調理法が生まれた瞬間のひらめきを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「時間が経ってもへたらず、カリッとした食感を保つにはどうすればいいか」
佐瀬守男は、来る日も来る日も鉄板に向かい試行錯誤を繰り返していた。
生地の配合を変え、火加減を調整し、何千個ものたこ焼きを焼いては捨て、焼いては食べた。
大阪の昔ながらのたこ焼きは、ふわふわとした柔らかさが特徴だ。
しかし佐瀬が目指したのは、それとは対極にある「食感のコントラスト」だった。
ある日、彼は中華料理の調理法からヒントを得る。
「揚げ焼き」である。
仕上げに油を回しかけることで、表面を高温で一気に硬化させる。
そうすれば水分を中に閉じ込めつつ、外側に強固な壁を作ることができるのではないか。
彼は早速試してみた。
たこ焼きが焼き上がる直前、鉄板の上に油を注ぐ。
ジュワッという激しい音と共に、たこ焼きの表面が黄金色に輝き始める。
そして出来上がった熱々の一粒を口に放り込む。
「……これだ!」
カリッという小気味よい音と共に歯が表面を突き破ると、中から熱々のトロトロの生地と旨味が溢れ出してくる。
外側の香ばしさと内側のクリーミーさ。
その劇的なコントラストは、これまでのたこ焼きにはない新しい体験だった。
さらに彼は具材にも徹底的にこだわった。
主役のタコは、世界中から探し求めた歯ごたえの良い高品質なものを、惜しげもなく大きくカットして入れる。
生地には干しエビ粉やカツオ出汁をたっぷりと練り込み、何もつけなくても美味しいほどの深い味わいを持たせた。
そして天かす、紅生姜、ネギ。
それぞれの具材が最高のバランスで協奏曲を奏でるように、配置や量も計算し尽くした。
「絶対にうまい。これなら食事として通用する」
しかし、この「揚げ焼き」という製法にはリスクもあった。
油を多く使うことで「脂っこい」「邪道だ」という批判を受ける可能性があったのだ。
特に関西のたこ焼きファンからは、反発が予想された。
それでも彼は自分の舌を信じた。
美味しいものは、理屈抜きに人を笑顔にする。
この「カリとろ」の食感こそが、たこ焼きを次のステージへ引き上げる鍵になると確信していたのだ。
こうして、「築地銀だこ」の原点となる味は完成した。
次は、この味をどうやって客に届けるか。
彼は店の「見せ方」にも、あっと驚くような仕掛けを用意していた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
仕上げに油をかけるという工程は、実はたこ焼きを型から剥がれやすくし、作業効率を上げるという側面もありました。美味しさと効率化を同時に実現した、まさに発明だったのです。
さて、究極のたこ焼きを作り上げた佐瀬。
彼はその販売方法にも、ある革命的なアイデアを持ち込みます。
次回、「ガラス張りの劇場」。
たこ焼き屋をエンターテイメントに変えた戦略とは。
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