なめらかプリンが起こしたデザート革命 第1話:固いプリンの時代
作者のかつをです。
本日より新章、第二十四章「プリン三日月の夜」の連載を開始します。
今回の主役は、今やスイーツの定番となった「なめらかプリン」。
かつて「プリンは固いもの」という常識しかなかった時代に、いかにしてあのとろける食感が生まれたのか。その誕生秘話に迫ります。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2026年、東京。
コンビニエンスストアのスイーツコーナーは、深夜でも明るい光に満ちている。
シュークリーム、エクレア、ロールケーキ。
その中でも、ひときわ大きなスペースを占めているのが「プリン」だ。
昔ながらの固めのプリン、とろとろのクリームのようなプリン、焼きプリン。
多種多様な食感と味わいが並び、私たちはその日の気分に合わせて自由に選ぶことができる。
特にスプーンを入れた瞬間に形が崩れそうなほど柔らかく、口に入れた瞬間に舌の上で溶けてなくなる「なめらか」なタイプのプリンは、今や定番中の定番として不動の人気を誇っている。
しかし、時計の針を少しだけ戻してみよう。
1980年代までの日本において、プリンといえば「固いもの」が決まりきった常識だった。
デパートの大食堂で食べる、銀色の器に乗ったプリン・ア・ラ・モード。
あるいは、家庭でハウス食品の「プリンミクス」を使って母が作ってくれた、冷蔵庫で冷やしたプリン。
それらはスプーンで叩くとプルンプルンと弾力よく揺れ、しっかりとした歯ごたえがある「カスタードプディング」だった。
卵の力でしっかりと固める。それがプリンの正義であり、定義だったのだ。
そんな「固いプリン」が支配する世界に、ある日突然、革命が起きた。
「固くないプリン」。
液体と固体の狭間にあるような、儚くも濃厚なその食感は、日本人のデザート観を根底から覆す衝撃だった。
これは、地方の一軒のイタリアンレストランの厨房から始まり、やがて日本中を「なめらか」な幸福で包み込んだ、一人のパティシエの挑戦の物語である。
物語は1990年代初頭、愛知県の知多半島にほど近い街に遡る。
バブル経済が崩壊し、世の中の空気が少しずつ変わり始めていた頃。
その街に、「チタ・イタリア(後のパステル)」という名のカジュアルなイタリアンレストランがあった。
パスタやピザを手頃な価格で提供するその店は、地元の若者や家族連れで賑わっていた。
その店の厨房で、デザートを担当していた一人の若きシェフ、所浩史は、ある悩みを抱えていた。
「お客様が、最後のデザートを残してしまう」
ボリューム満点のパスタやピザを食べた後では、従来のしっかりとした固いプリンやケーキは、日本人のお腹には少し重すぎたのだ。
「もっと軽く、満腹でもすっと入るような、そんなデザートは作れないだろうか」
彼の頭の中にあったのは、料理の締めくくりとして完璧な、喉越しの良い「何か」だった。
それはまだ、誰も見たことのない新しいプリンの輪郭だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第二十四章、第一話いかがでしたでしょうか。
「プッチンプリン」に代表されるように、皿に出してプルンと揺れるのがプリンの醍醐味でした。その常識に対して、「皿に出せないほど柔らかいプリン」を作るというのは、当時としてはかなり勇気のいる発想だったはずです。
さて、お腹いっぱいでも食べられるデザートを目指した所シェフ。
彼はどんな工夫でその難題に挑んだのでしょうか。
次回、「卵白を捨てる勇気」。
プリン作りの常識を覆す挑戦が始まります。
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