無洗米開発、百年続いた習慣への挑戦 第6話:環境を守る白い粒(終)
作者のかつをです。
第二十三章の最終話です。
一人の情熱が、いかにして常識を変え、環境を守り、私たちの生活を豊かにしたのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、無洗米の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
雜賀慶二が「海を守りたい」と願って開発を始めてから、半世紀近い時が流れた。
今や無洗米は、日本の米市場の数割を占めるまでに成長した。
スーパーには専用のコーナーができ、コンビニのおにぎりや弁当の多くにも無洗米が使われている。
その普及によって、どれだけの水が節約され、どれだけのとぎ汁が削減されただろうか。
目に見える形ですぐに結果が出るわけではない。
しかし、かつて赤潮で死にかけていた和歌山の海は、少しずつその青さを取り戻しつつある。
さらに、この技術は海を越えて世界へと広がろうとしている。
水資源が乏しい国や地域。
キャンプやアウトドアという新しいライフスタイル。
SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる現代において、水を使わずに調理でき、環境負荷も少ない無洗米は、「未来の食糧」としての可能性を秘めている。
製造工程で取り除かれた肌ヌカもまた、無駄にはされていない。
「米の精」という名の有機肥料として生まれ変わり、畑の土を豊かにし、また新しい作物を育てている。
完全な循環型社会のモデルが、そこにはある。
……2026年、東京。
物語の冒頭に登場した、あの共働き夫婦の食卓。
炊きたての無洗米のご飯から、ふわりと甘い湯気が立ち上る。
「いただきます」
夫が一口頬張り、満足そうに頷く。
「やっぱり、家のご飯が一番だな」
彼らは知らない。
今、自分たちが当たり前のように食べているその一杯のご飯が、かつて一人の男が美しい海を取り戻したいと願い、20年もの歳月をかけて「研ぐ」という百年の常識に挑んだ、執念の結晶だということを。
ヌカでヌカを取るという奇跡のような発見。
主婦たちの拒絶と、震災での再評価。
数々の苦難を乗り越えてたどり着いた、優しくて強い技術。
歴史は、教科書の中だけにあるのではない。
私たちの、この何気ない毎日の食事の中に、そして守られた青い海の中に、確かに息づいているのだ。
妻がおかわりをよそう。
その白い粒の一つ一つが、未来の地球を少しだけ良くしていることを信じて。
(第二十三章:米を洗わないという選択 ~無洗米開発、百年続いた習慣への挑戦~ 了)
第二十三章「米を洗わないという選択」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
雜賀慶二氏はその後も環境保護活動に尽力されました。私たちが毎日何気なく選ぶ「無洗米」という選択肢が、実は地球を守る小さな一歩になっている。そう思うと、ご飯がより美味しく感じられる気がしませんか?
さて、主食である米の物語でした。
次なる物語は、食後の楽しみ「デザート」に革命をもたらした、あるパティシエの物語です。
次回から、新章が始まります。
**第二十四章:プリン三日月の夜 ~なめらかプリンが起こしたデザート革命~**
プリンは「固いもの」という常識を覆し、とろけるような食感で日本中を虜にしたあのスイーツ。
その誕生の裏には、失敗から生まれた奇跡がありました。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第二十四章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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