無洗米開発、百年続いた習慣への挑戦 第3話:ヌカを剥がす難問
作者のかつをです。
第二十三章の第3話をお届けします。
「ヌカでヌカを取る」というコロンブスの卵のような発想。
今回は、長年の苦闘の末にたどり着いた独自の技術「BG精米製法」の誕生秘話を描きました。
自然の理を利用した、無理のない、しかし革新的な技術です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「ヌカで、ヌカを取る」
雜賀慶二がたどり着いた仮説は、あまりにも奇抜だった。
肌ヌカの持つ強い粘着性を利用して、他の肌ヌカをくっつけて剥がし取るというのだ。
「毒をもって毒を制す、みたいなもんだな」
彼はすぐに実験装置を組み立てた。
しかし、その制御は困難を極めた。
単にヌカを混ぜるだけでは、逆に米にヌカが再付着して汚れてしまう。
米の表面から肌ヌカを一瞬だけ浮かせ、そこに別のヌカを接触させて絡め取り、瞬時に引き剥がす。
その絶妙なタイミングと圧力をコントロールしなければならない。
ヒントになったのは、昔ながらの「手洗い」の原理だった。
手にべっとりとついた糊や油汚れを落とすとき、乾いた布や粉で擦り合わせると、汚れ同士がくっついてポロポロと落ちていく。
あの現象を、機械の中で再現するのだ。
彼は、微量の水を使って米の表面の肌ヌカを少しだけふやかし、粘着力を高める方法を考案した。
そこに「熱付着材」としてタピオカのデンプンなどを試してみたが、コストがかかりすぎる。
「やはり、ヌカそのものを使うしかない」
精米工程で出る通常のヌカ(白ヌカ)を、米にぶつける。
すると、湿らせた肌ヌカの粘着力で白ヌカがくっつく。
そして、その白ヌカが離れる瞬間に、肌ヌカも一緒に道連れにして剥がれ落ちる。
「これだ……! これならいける!」
理論は確立した。
しかし、それを安定した工業製品として製造する機械を作るのは、また別の高い山だった。
水分の量は多すぎれば米が傷むし、少なすぎればヌカが取れない。
機械の中での滞留時間、圧力、温度。
無数のパラメータを一つ一つ調整し、最適な条件を探り当てる日々が続いた。
開発を始めてから、すでに15年の歳月が流れていた。
会社の経営も決して楽ではなかった。
それでも雜賀は、「これが完成すれば、世界の水環境が変わる」と信じて、開発の手を緩めなかった。
そして1991年。
ついにその機械は完成した。
「BG(Bran Grind)精米製法」。
BranでGrind(削る)という意味を込めた、世界初の画期的な無洗米製造装置の誕生だった。
出来上がった米は、水晶のように透き通っていた。
水に入れても白く濁らない。
それでいて、米の旨味層である亜糊粉層はしっかりと残されている。
「やった……。ついに、やったぞ」
雜賀は、出来上がった無洗米を炊いて一口食べた。
ふっくらとして、甘く、香ばしい。
研ぎ洗いをした米よりも、はるかに美味しいご飯がそこにあった。
それは、日本の食卓と環境を守るための、長い長い戦いの最初の勝利だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
このBG精米製法のすごいところは、水も薬品も一切使わず、廃棄物となるはずの「ヌカ」を有効活用している点です。そして剥がれ落ちた肌ヌカは、有機肥料として土に還ることができる。まさに完全循環型の技術なのです。
さて、ついに完成した夢の無洗米。
しかし、それを世の中に広めるためには、またしても「常識」という壁が立ちはだかります。
次回、「主婦たちの拒絶」。
発売直後の意外な反応とは。
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