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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第2部:外食文化の設計者編 ~レストランの「仕組み」を創った人々~
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無洗米開発、百年続いた習慣への挑戦 第1話:赤潮の海と、米のとぎ汁

作者のかつをです。

 

本日より新章、第二十三章「米を洗わないという選択」の連載を開始します。

今回のテーマは、今やスーパーで当たり前に見かける「無洗米」。

その開発の動機が「家事の時短」ではなく、「環境保護」にあったという驚きの事実から物語は始まります。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2026年、東京。

 

都心のスーパーマーケットの米売り場には、色とりどりのパッケージが並んでいる。

コシヒカリ、あきたこまち、つや姫。

その銘柄の隣には、当たり前のように「無洗米」の文字が躍っている。

 

仕事帰りの共働き夫婦が、迷わずその袋をカゴに入れる。

帰宅して袋を開け、計量カップで米を計り、そのまま炊飯器に入れて水を注ぐだけ。

冷たい水に手をさらして米を研ぐという、かつては毎日繰り返されていたあの冷たくて面倒な家事は、今や過去のものとなりつつある。

 

しかし、この「米を洗わない」という選択肢が、単なる家事の手間を省くための発明ではなく、ある一人の男が美しい海を守りたいと願った、壮大な環境保護への情熱から生まれたものであることを知る者は少ない。

 

これは、日本人の主食である「米」の常識を百年ぶりに覆した、地方の小さな町工場の社長の物語である。

 

物語は1970年代半ば、和歌山県和歌山市に遡る。

 

精米機の製造販売を手がける東洋精米機製作所の社長、雜賀さいか慶二は、ある日、趣味のスキューバダイビングで潜った海の中で愕然とした。

かつては珊瑚が咲き乱れ、色鮮やかな魚たちが泳ぎ回っていた故郷の海が、ヘドロで覆われ死の世界のように変わり果てていたのだ。

 

「……なんということだ」

 

当時、日本は高度経済成長のツケとして各地で公害問題が発生しており、瀬戸内海や和歌山の海でも「赤潮」が頻発していた。

プランクトンが異常発生し、魚たちが酸欠で死んでいく。

 

その原因の一つとされていたのが、家庭からの生活排水に含まれる「リン」や「窒素」だった。

そして雜賀は、ある衝撃的なデータを目にする。

 

家庭から出るリンの排出源として、合成洗剤やし尿に次いで大きな割合を占めているのが、なんと「米のとぎ汁」だったのだ。

 

米を研ぐときに出るあの白い濁り水。

あれは米の表面に残った「肌ヌカ」が溶け出したものであり、そこにはリンや窒素が大量に含まれている。

日本中の家庭が毎日、朝晩と流し続けるその膨大な量の白い水が、巡り巡って海を汚し、生態系を破壊していたのだ。

 

「俺たちは、精米機メーカーとして米を削る機械を作っている。つまり、間接的に海を汚す手助けをしていたことになるんじゃないか」

 

その事実は、海を愛する彼にとってあまりにも重く、そして耐え難いものだった。

 

「もし、工場であらかじめ肌ヌカを完全に取り除いた米を作ることができれば、家庭で米を研ぐ必要はなくなる。とぎ汁も出ない。海も守れる」

 

それは、精米機メーカーとしての責任であり、そして一人の人間としての海への贖罪でもあった。

 

「米は研いで炊くもの」。

日本人が弥生時代から続けてきたその揺るぎない常識に対し、雜賀はたった一人で戦いを挑む決意を固めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二十三章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

米のとぎ汁が環境汚染の原因になっているという事実は、当時あまり知られていませんでした。

雜賀慶二はその事実にいち早く着目し、本業である精米技術で解決しようと立ち上がったのです。

 

さて、壮大な目標を掲げた雜賀。

しかし、「米を洗わずに炊く」という技術の確立は、想像を絶する難題でした。

 

次回、「『研ぐ』という常識への挑戦」。

彼の孤独な研究の日々が始まります。

 

ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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