激辛ブームを創ったエスニック料理の伝道師たち 第5話:食卓を彩る赤(終)
作者のかつをです。
第二十二章の最終話です。
拒絶から熱狂へ、そして定着へ。
日本人の味覚の変化を追いながら、激辛ブームの物語を締めくくりました。
辛いものを食べて汗をかく。そんなシンプルな行為の中に、先人たちの知恵と努力が詰まっていることを感じていただければ幸いです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
かつて原宿の路地裏で、「痛い」と敬遠されたあの一皿。
その種火から始まった赤い炎は、半世紀近い時を経て日本の食卓を温かく、そして鮮やかに照らし続けている。
スーパーマーケットの調味料コーナーに行けば、一目瞭然だ。
豆板醤、コチュジャン、チリパウダー、ハラペーニョソース。
世界中のあらゆる「辛さ」が瓶詰めされ、当たり前のように並んでいる。
家庭のキッチンでも、主婦が手慣れた手つきでパスタに鷹の爪を散らし、父親が晩酌のつまみに七味唐辛子をたっぷりと振る。
辛さはもはや特別な日の冒険ではなく、日常の食事に彩りとアクセントを加える欠かせないパートナーとなった。
そして、その文化は新たな世代へと受け継がれている。
……2026年、東京。
冒頭に登場した激辛グルメ祭りの会場。
一組のカップルが、真っ赤な坦々麺をシェアしている。
額に玉のような汗を浮かべながら、二人は満面の笑みで顔を見合わせる。
「辛いね!」
「でも、最高に美味しいね!」
彼らは知らない。
今、自分たちが笑顔で楽しんでいるこの刺激的な食文化が、かつて偏見と誤解の中で戦い続けた料理人たちの情熱によって切り拓かれたものであることを。
「辛さを数値化する」という発明がなければ、彼らはこの料理に挑戦しようとさえ思わなかったかもしれない。
「旨辛」という哲学がなければ、これほど深く愛されることはなかったかもしれない。
歴史は、教科書の中だけにあるのではない。
私たちの舌の上で弾ける、このピリリとした刺激の中に確かに息づいているのだ。
カップルは最後の一滴までスープを飲み干し、爽快な表情で会場を後にする。
その背中を見送りながら、かつて「悪魔」と呼ばれた赤い粉は、今や人々を元気にする「太陽」のような存在になったのだと確信した。
(第二十二章:悪魔の赤い粉 ~激辛ブームを創ったエスニック料理の伝道師たち~ 了)
第二十二章「悪魔の赤い粉」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
カプサイシンの刺激は脳内麻薬であるエンドルフィンを分泌させ、幸福感をもたらすとも言われています。辛いものを食べてスカッとするのは、科学的にも理にかなっているのですね。
さて、味覚の冒険はまだまだ続きます。
次なる物語は、日本人の主食である「米」の常識を覆した、ある発明家の執念の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第二十三章:米を洗わないという選択 ~無洗米開発、百年続いた習慣への挑戦~**
「米は研いで炊くもの」。
その常識に疑問を持ち、環境問題と家事の負担を同時に解決しようとした男がいました。
20年にも及ぶ開発の苦闘を描きます。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第二十三章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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