とんこつラーメン、偶然の誕生秘話 第5話:博多、そして全国へ
作者のかつをです。
第二十一章の第5話をお届けします。
一つの発明がいかにして地域に根差し、そしてその土地の文化と融合しながら独自の進化を遂げていくのか。
今回はとんこつラーメンが「久留米」から「博多」へと伝播していくその歴史のダイナミズムを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
杉野勝見の新しい挑戦が始まった。
あの偶然生まれた白いスープを、最高の一杯のラーメンへと完成させるための試行錯誤の日々だ。
彼はまず課題であった獣臭を抑えることに心血を注いだ。
ニンニク、ショウガ、ネギの青い部分。
様々な香味野菜を試す中で、彼はそれらが豚骨の臭みを見事にマスキングし、逆に食欲をそそる豊かな香りへと変えてくれることを発見した。
タレも改良した。
これまでのあっさりとした醤油ダレではない。
この濃厚なスープに負けない力強い醤油の風味とキレのある塩味。
そして麺。
このクリーミーなスープには小麦の風味がしっかりと感じられる中細のストレート麺が最も相性が良いことを突き止めた。
数ヶ月後、ついにその究極の一杯は完成した。
彼はそのラーメンを「とんこつラーメン」と名付け、屋台「三九」の新しい看板メニューとして客の前に出した。
最初はその白く濁った見た目に戸惑っていた客も、一度そのスープを口にすると誰もがその中毒性のある濃厚な味わいの虜となった。
「なんやこりゃ! うまか!」
噂は噂を呼び、「三九」のとんこつラーメンは久留米の街で知らぬ者のいない伝説の一杯となった。
屋台の前には連日長蛇の列ができるようになった。
その熱狂はやがて久留米という地方都市の枠を超える。
「三九」の噂を聞きつけた近隣の商業都市、博多のラーメン職人たちが次々と彼の店を訪れたのだ。
彼らもまたその革新的な白いスープに衝撃を受けた。
「三九」で修行した弟子たち、そしてその味にインスパイアされた料理人たち。
彼らが博多の中洲や長浜で次々と新しいとんこつラーメンの店をオープンさせていった。
博多という新しい土壌を得て、とんこつラーメンはさらに独自の進化を遂げる。
忙しい魚市場で働く人々のためにすぐに茹で上がる「極細麺」。
その極細麺を最後まで美味しく食べきるための「替え玉」という画期的なシステム。
紅生姜や辛子高菜といった多彩なトッピング。
久留米で生まれたとんこつラーメンのDNAは博多の地で磨き上げられ、やがて「博多ラーメン」という一つの巨大なブランドを築き上げていったのだ。
一軒の屋台で灯ったささやかな革命の火。
その火は今や九州全土を覆う大きな炎となって燃え上がっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今でも「とんこつラーメン発祥の地は久留米か博多か」という論争が時々起こりますが、そのすべての源流に久留米の「三九」があったことは紛れもない事実なのです。
さて、九州を席巻した白いスープ。
その快進撃はまだ止まりません。
次回、「世界を虜にした一杯(終)」。
とんこつラーメンが世界へと羽ばたきます。
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