とんこつラーメン、偶然の誕生秘話 第4話:捨てられなかった、未知の味
作者のかつをです。
第二十一章の第4話をお届けします。
失敗を失敗として終わらせるか。
それとも新しい発明の種として見つけ出すか。
今回はその運命の分岐点となった感動の発見の瞬間をドラマチックに描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
杉野勝見はレンゲでその白く濁ったスープをそっとすくい上げた。
鼻を近づけるとやはり独特の獣臭がする。
彼は眉をひそめながらも、意を決してその液体を口に含んだ。
次の瞬間、彼の全身を経験したことのない衝撃が貫いた。
「……なんや、これは……!」
それは彼がこれまで作り続けてきた醤油ラーメンのスープとは全く別次元の飲み物だった。
まず舌を包み込むクリーミーでまろやかな口当たり。
そしてそのまろやかさの奥から追いかけてくる圧倒的な味の厚み。
豚の骨の髄の髄まで絞り尽くしたかのような濃厚な「コク」と「うま味」が、津波のように彼の味蕾を襲った。
確かに獣臭はある。
しかしその荒々しい野趣あふれる香りでさえも、この暴力的なまでのうま味の前では一つの個性として成立してしまっている。
彼はもう一口、夢中でスープをすすった。
間違いない。
これは彼が目指していた澄んだ黄金色のスープには決してない新しい味覚の世界だ。
繊細さや上品さではない。
もっと野性的で、もっと中毒性の高い未知のパワーがこの一杯には秘められている。
彼の頭の中で絶望が歓喜へと変わる音がした。
「……これは失敗やない。発明や!」
彼は叫んだ。
母親のたった一つのうっかりミス。
それが偶然開けてしまった新しいラーメンの扉。
彼はその偶然をただの幸運として見過ごすような凡庸な料理人ではなかった。
その失敗の向こう側にある無限の可能性を見抜くことができる天才的な慧眼を持っていたのだ。
彼はすぐさま行動を開始した。
この荒々しい原石をどうすれば最高の一杯のラーメンへと磨き上げることができるのか。
獣臭をどうやって抑えるか。
ニンニクかショウガか、あるいは他の香味野菜か。
この濃厚なスープに負けないタレはどんなものがいいのか。
醤油か塩か。
そしてこのクリーミーなスープに絡む最高の麺はどんな太さがいいのか。
彼の頭の中は次から次へと溢れ出してくる新しいアイデアで沸騰していた。
あの日捨てられかけた一杯の白いスープ。
その一杯が今、日本のラーメンの歴史を根底から塗り替える偉大な第一歩へと変わろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この偶然の産物を見過ごさなかった杉野勝見の慧眼こそが、とんこつラーメンの誕生における最大の奇跡だったのかもしれません。
まさにセレンディピティですね。
さて、ついに新しいラーメンの可能性に気づいた杉野。
彼はこの偶然の産物をいかにして究極の一杯へと昇華させていったのでしょうか。
次回、「博多、そして全国へ」。
久留米から始まった白い革命が日本中へと広がっていきます。
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