日本初のミルクスタンドは駅にあった 第5話:消えゆく、瓶の記憶(終)
作者のかつをです。
第二十章の最終話です。
時代の流れと共に消えゆく文化。
その一抹の寂しさと、しかしその魂は確かに受け継がれていくという希望。
今回は、そんな歴史の光と影を描いてみました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
時代は流れた。
自動販売機が、街の至る所に現れた。
コンビニエンスストアが、24時間煌々と明かりを灯すようになった。
人々はもはや駅のホームまで行かなくても、いつでもどこでも冷たい飲み物を手に入れることができるようになった。
牛乳もまた、ガラス瓶から軽くて扱いやすい紙パックへと主役の座を譲っていった。
かつてあれほど日本のどこの駅にもあったミルクスタンド。
その数は時代の大きな波の中で、少しずつ少しずつ減っていった。
あの懐かしい昭和の原風景は、今や絶滅の危機に瀕する貴重な文化遺産となりつつある。
しかし、彼らが歴史に刻んだ功績が色褪せることは決してない。
彼らが命がけで築き上げたコールドチェーンという思想と技術。
それは牛乳だけでなく、あらゆる生鮮食品の流通の礎となった。
私たちが今スーパーで当たり前のように新鮮な肉や魚を手に入れることができるのも、その延長線上にある。
そして、何よりも。
彼らが日本の子供たちの未来を本気で憂い、行動したその熱い志。
戦後の何もない焼け跡の時代、一杯の温かい牛乳がどれほど多くの子供たちの心と体を救ったことか。
その一杯の白い希望が、日本の力強い復興を足元から支えた一片の真実。
そのことを、私たちは決して忘れてはならない。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あの秋葉原駅のホーム。
一人の若い父親が小さな息子の手を引き、ミルクスタンドの前に立っている。
「父ちゃんが子供の頃はな、いつもここのフルーツ牛乳を飲むのが楽しみだったんだ」
彼は少し照れ臭そうにそう言った。
彼は、知らない。
今、自分が当たり前のように息子に語っているそのささやかな思い出が、かつて敗戦に打ちひしがれたこの国を元気にしたいと願った、名もなき開拓者たちの大きな夢の続きだということを。
歴史は、古い写真の中だけにあるのではない。
私たちの、この親から子へと受け継がれていくささやかな味の記憶の中に、確かに生き続けているのだ。
息子が受け取った一本の瓶牛乳。
その冷たさが、彼の小さな手のひらに心地よく伝わっていく。
その一杯がいつか彼の未来の温かい思い出の一ページになることを願いながら、父親はその光景をただ静かに見守っていた。
(第二十章:牧場の搾りたてを街角へ ~日本初のミルクスタンドは駅にあった~ 了)
第二十章「牧場の搾りたてを街角へ」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
秋葉原駅のミルクスタンドは今も現役で営業を続けています。もし近くを訪れる機会があればぜひ立ち寄って、その歴史の味を確かめてみてはいかがでしょうか。
さて、第二部「外食文化の設計編」は、この章で一区切りとなります。
次なる物語は、戦いの舞台を再び味覚の最前線へと戻します。
次回から、第三部が始まります。
**第二十一章:白い豚の骨のスープ ~とんこつラーメン、偶然の誕生秘話~**
今や世界的な人気を誇るとんこつラーメン。
その濃厚でクリーミーな白いスープが実は一軒の屋台の、たった一つの「失敗」から偶然生まれたという驚きの物語です。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第三部の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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