日本初のミルクスタンドは駅にあった 第4話:15円の、小さな贅沢
作者のかつをです。
第二十章の第4話をお届けします。
一つの新しい文化がいかにして人々の生活の中に溶け込んでいったのか。
今回は、ミルクスタンドが多く人々に愛される存在となっていく、その心温まるプロセスを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
秋葉原駅のホームに誕生したミルクスタンド。
その新しい風景は、すぐに駅を行き交う人々の注目を集めた。
特に、その目新しい店に吸い寄せられたのは子供たちだった。
学校帰りの小学生たち。
彼らは、お小遣いを握りしめ恐る恐るカウンターの前に立った。
「牛乳、ください」
店員から手渡されたのは、キリリと冷えた一本のガラス瓶。
銀色の紙キャップを指で押し開ける。
そして、腰に手を当て一気に煽る。
大人たちの真似をしながら。
口の中に広がるほのかな甘みと濃厚なコク。
学校給食の脱脂粉乳とは全く違う、本物の牛乳の味。
「……うまい!」
子供たちの屈託のないその一言。
それが、最高の宣伝文句となった。
一杯15円。
子供のお小遣いでもなんとか手が届く、ささやかな贅沢。
駅のホームで瓶牛乳を飲む。
その少しだけ大人びた特別な体験は、子供たちの心を鷲掴みにした。
やがて、その輪は大人たちへも広がっていった。
通勤途中のサラリーマンが、朝のエネルギー補給に一杯。
仕事帰りのOLが、一日の疲れを癒すために一杯。
ミルクスタンドは性別も年齢も超えて、あらゆる人々の生活のワンシーンに溶け込んでいった。
特に人気を博したのが、コーヒー牛乳やフルーツ牛乳といった「色物」と呼ばれた甘い乳飲料だった。
疲れた体にその優しい甘さが染み渡る。
秋葉原駅での実験的な成功。
その確かな手応えを掴んだ全農と国鉄は、ついに本格的な全国展開へと舵を切る。
上野、東京、新宿。
都心の主要な駅のホームに、次々とミルクスタンドがオープンしていった。
そして、その波はやがて日本全国の駅へと広がっていく。
駅のホームに、ミルクスタンドがある。
その光景は、昭和の日本の鉄道風景の象徴となった。
かつて一人の男が夢見た光景。
牛乳をもっと身近な日常の飲み物に。
その夢は、彼が想像したそれ以上の形で日本中に根付いていた。
それは単なる飲み物ではなかった。
それは忙しい都会の生活の中で、人々がふと立ち止まり心を潤す一瞬の「止まり木」。
一杯15円で手に入る、小さなしかし確かな幸福だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
瓶牛乳の紙キャップ、あの針のようなもので穴を開けて飲むという作法、懐かしいですよね。あのささやかな儀式もまた、ミルクスタンドの楽しみの一つでした。
さて、ついに昭和の国民的風景となったミルクスタンド。
その一杯の牛乳は、現代の私たちにどう繋がっているのでしょうか。
次回、「消えゆく、瓶の記憶(終)」。
第二十章、感動の最終話です。
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