冷凍パン生地が起こしたパン屋革命 第6話:焼きたての、その先へ(終)
作者のかつをです。
第十九章の最終話です。
一つの技術革新がいかにして人々の働き方を、そして夢の実現の仕方を変えていったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、冷凍パン生地の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
冷凍パン生地が切り拓いた新しい道。
そのイノベーションは、街のパン屋さんだけにとどまらなかった。
その技術は、私たちの家庭の食卓にも革命をもたらした。
スーパーマーケットの冷凍食品コーナーには、当たり前のように「冷凍パン」が並ぶようになった。
クロワッサン、アップルパイ、そしてピザ。
家庭のオーブントースターで焼くだけで、いつでも自宅が焼きたてのパン屋さんに早変わりする。
その夢のような体験を、冷凍パン生地は可能にしたのだ。
そして、その技術は今この瞬間も進化し続けている。
アレルギーに対応した米粉のパン。
健康志向の全粒粉やライ麦のパン。
かつては専門の職人にしか作れなかった多種多様なパンが、冷凍生地というプラットフォームの上で次々と生み出されている。
それは、パンの可能性を無限に広げる魔法のシステム。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あの駅前。
一人の若い女性がオープンしたばかりの、小さなお洒落なベーカリーで店長としてきびきびと働いている。
彼女はパン職人としての経験はない。
しかし、彼女には人々を笑顔にするパン屋を開きたいという熱い夢があった。
冷凍パン生地というシステムが、彼女のその夢を叶えてくれたのだ。
彼女は、知らない。
今、自分が当たり前のようにオーブンに入れているその凍った生地が、かつて午前3時の厨房で孤独に戦い続けた職人たちの過酷な労働をなくしたいと願った、名もなき技術者たちの優しさの結晶だということを。
目に見えない酵母とグルテンの声なき声に耳を澄ませ、戦い続けた研究者たちの執念の賜物だということを。
歴史は、遠い昔の成功譚の中だけにあるのではない。
私たちの、この街角のパンの香ばしい匂いの中に、確かに息づいているのだ。
やがて、オーブンからチーンという軽やかな音が鳴る。
扉を開けると、そこには黄金色に輝く完璧なクロワッサンが焼きあがっていた。
その焼きたての温かさ。
それこそが、技術と人の夢が見事に結びついた、新しい時代の希望の温かさなのかもしれない。
(第十九章:職人不要のパン屋さん ~冷凍パン生地が起こしたパン屋革命~ 了)
第十九章「職人不要のパン屋さん」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
冷凍パン生地の技術は、今やパンだけでなくケーキやパイといった洋菓子の世界にも広く応用されています。まさに、私たちの食の選択肢を豊かにしてくれる偉大な発明なのです。
さて、第二部「外食文化の設計編」は、この章で一区切りとなります。
次なる物語は、戦いの舞台を再び家庭の食卓へと戻します。
次回から、第三部が始まります。
**第二十章:牧場の搾りたてを街角へ ~日本初のミルクスタンドは駅にあった~**
(※構成案の章番号を修正しました)
戦後の栄養不足の時代、子供たちに新鮮で栄養価の高い牛乳を飲ませたい。
その一心で駅のホームという一等地に、牛乳を飲むためだけのスタンドを作った男たちがいました。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第三部の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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