「サーティワン」が日本にアイスクリーム文化を根付かせた日 第6話:ショーケースの中の、幸福論(終)
作者のかつをです。
第十八章の最終話です。
一つのブランドがいかにして一つの「文化」を創り上げていったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、サーティワンの物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
サーティワンが日本にもたらした革命。
それは、単に新しいフレーバーを紹介したというだけではなかった。
彼らは、日本人の「アイスクリーム」という食べ物に対する概念そのものを根底から変えてしまったのだ。
アイスクリームはもはや、ただ甘くて冷たいだけのデザートではない。
それは「選ぶ」ものである。
それは「体験する」ものである。
そして、それは「コミュニケーション」のツールである。
その新しい価値観は、サーティワンという一企業の枠を超え、日本のアイスクリーム市場全体を豊かで多様なものへと押し上げていった。
コンビニエンスストアのアイスケースには、毎シーズン驚くような新しいフレーバーのアイスが並ぶようになった。
ソフトクリーム店ではご当地の特産品を使ったユニークな味が、旅の楽しみの一つとなった。
そのすべての源流には、あのカリフォルニアの二人の義理の兄弟が抱いた、「退屈との戦い」というささやかな、しかし偉大な夢があった。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのショッピングモール。
ショーケースの前で目を輝かせていた少女が、ようやく決心したように店員に指をさしている。
「ポッピングシャワー、ください!」
彼女は、知らない。
今、自分が当たり前のように選んだその口の中でパチパチと弾ける楽しいアイスクリームが、かつて日本では「気味が悪い」と敬遠されていた時代の徒花であったということを。
その未知の味への扉を開いてくれたのが、一本の小さなピンク色のスプーンであったということを。
歴史は、遠いアメリカの成功者の物語の中だけにあるのではない。
私たちの、このささやかな休日の一コマの中に、確かに息づいているのだ。
やがて、少女の手に小さなカップが渡される。
ショーケースの中に並んでいたのは、単なるアイスクリームではなかったのかもしれない。
あれは31種類の色をした、様々な形の「幸福」そのものだったのだ。
そして、その中から自分だけのたった一つの幸福を選び出す、あのキラキラと輝く時間。
それこそが、サーティワンが日本の子供たちにかけた最も甘くて優しい、「31番目の魔法」だったのかもしれない。
(第十八章:31番目の魔法 ~「サーティワン」が日本にアイスクリーム文化を根付かせた日~ 了)
第十八章「31番目の魔法」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ちなみに、サーティワンのロゴに隠された「31」の数字。あれは日本法人のアイデアがきっかけで採用され、今や世界共通のロゴデザインとなっているそうです。日本のデザイン力が本家を超えた瞬間ですね。
さて、食卓の「楽しさ」を演出した物語でした。
次なる物語は、今度はパンの世界に革命をもたらしたもう一つの知られざる挑戦です。
次回から、新章が始まります。
**第十九章:職人不要のパン屋さん ~冷凍パン生地が起こしたパン屋革命~**
早朝からの過酷な仕込み作業。
パン職人の高い技術。
そんな参入障壁を打ち破り、誰もがパン屋のオーナーになれる夢のシステム。
その誕生の舞台裏に迫ります。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十九章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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