「サーティワン」が日本にアイスクリーム文化を根付かせた日 第2話:バスキンと、ロビンスの夢
作者のかつをです。
第十八章の第2話をお届けします。
今回は、物語の原点であるアメリカの創業者たちの夢と哲学に光を当てました。
「退屈との戦い」こそが、すべてのイノベーションの母なのですね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
サーティワンアイスクリームの物語の原点は、アメリカのカリフォルニアにあった。
二人の義理の兄弟、バート・バスキンとアーヴ・ロビンス。
彼らのささやかな、しかし共通の夢からすべては始まった。
第二次世界大戦中、軍務に就いていた二人は南の島で兵士たちが退屈しのぎに、ココナッツミルクを凍らせてアイスクリームのようなものを作って食べている光景を目にした。
どんな過酷な状況でも冷たくて甘いものは人々を笑顔にする。
その普遍的な真実を、彼らは肌で感じていた。
戦争が終わり、アメリカに平和が戻った。
人々は豊かさと、そして「楽しさ」を求めていた。
バスキンとロビンスは、それぞれ別々にアイスクリーム店を開いた。
しかし、彼らが目指していたものは同じだった。
当時のアメリカのアイスクリーム店もまた、バニラ、チョコレート、ストロベリーといったごくありふれたフレーバーしか置いていなかった。
どこか退屈で代わり映えのしない世界。
「もっと人々をワクワクさせることはできないだろうか」
「アイスクリーム店を単に食べる場所ではなく、心躍るエンターテイメントの場所にしたい」
二人は手を組んだ。
そして、前代未聞の実験に乗り出す。
彼らは毎週のように、奇想天外な新しいフレーバーを開発した。
ナッツやマシュマロ、チョコレートチップを惜しげもなく混ぜ込んだ「ロッキーロード」。
ラム酒に漬け込んだレーズンが芳醇に香る大人の味、「ラムレーズン」。
そして、彼らは一つの革命的なコンセプトを打ち立てる。
「31種類」
1ヶ月(31日間)毎日店に足を運んでも、決して飽きさせることのない驚きと発見を提供する。
その圧倒的な多様性。
さらに、彼らはもう一つの偉大な発明を生み出した。
「テイストスプーン」である。
鮮やかなピンク色の小さなスプーン。
客は気になるフレーバーがあれば、このスプーンで無料で味見をすることができる。
これは、単なる試食サービスではなかった。
それは「選ぶ」という行為そのものを、一つの楽しい「体験」へと昇華させる魔法の杖だったのだ。
この革新的なコンセプトは、アメリカで爆発的な成功を収めた。
「バスキン・ロビンス(サーティワン)」は、全米へとその翼を広げていった。
その熱狂の噂を聞きつけ、日本の菓子メーカー「不二家」の若き社員がアメリカへと飛んだ。
彼がそこで見たのは、目を輝かせながらショーケースを覗き込む子供たちの笑顔、笑顔、笑顔。
「……この光景を、日本の子供たちにも見せてやりたい」
彼の胸に、熱いものがこみ上げてきた。
日本のまだ色褪せていたアイスクリームの世界を、カラフルな夢で満たしたい。
その強い想いが、彼を突き動かした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
バスキンとロビンス。この二人の創業者のキャラクターは対照的だったと言われています。バスキンが真面目なビジネスマンだったのに対し、ロビンスはアイデアマンのエンターテイナー。その絶妙なコンビネーションがサーティワンの成功を生み出したのです。
さて、ついに日本へと上陸することになったサーティワン。
しかし、そのアメリカンな文化はすぐには受け入れられませんでした。
次回、「『楽しい』を、どう売るか」。
日本第一号店の苦い船出の物語です。
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