主婦を火の番から救った自動炊飯器 第5話:ついに見つけた最適温度
作者のかつをです。
第二章の第5話をお届けします。
華やかなひらめきの裏側にある地道で科学的な検証作業。
今回は技術者たちの粘り強さがついに報われる瞬間を描きました。
泥臭い努力の先にこそ、真のブレークスルーはあるのかもしれません。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「もう一度、基本に戻ろう」
苦情の嵐が吹き荒れる中、プロジェクトリーダーは静かに言った。
彼は700軒の家庭から集めた膨大な失敗のデータを、机の上に広げた。
そこには、一つ一つの家庭の電圧、米の種類、水の量、そして失敗したごはんの状態が克明に記録されていた。
この数字の羅列の中に、必ず答えは隠されているはずだ。
チームは再び炊飯実験に没頭した。
来る日も来る日も米を炊き、そしてデータを取る。
まるで科学論文でも執筆するかのように、あらゆる条件を変えながら炊きあがりの違いを丹念に検証していった。
そして、ついに一つの仮説にたどり着く。
「問題はスイッチが切れる、外釜の温度にあるんじゃないか?」
二重釜方式の肝は、外釜の水が蒸発し温度が急上昇した瞬間にスイッチが切れること。
しかし、その「急上昇」が始まる温度の設定が曖昧だったのではないか。
もし温度が上がりすぎるまでスイッチが切れなければ、内釜のごはんは焦げてしまう。
逆に、温度が上がりきる前にスイッチが切れてしまえば蒸らしが不十分で芯が残る。
そこから、さらに地道な実験が続いた。
百度、百一度、百二度……
スイッチが切れる温度を一度単位で変えながら、炊きあがりの状態を比較検討していく。
そして、ついに運命の「最適温度」を発見した。
それは、摂氏九十八度。
外釜の水がほぼなくなり釜の底の温度が九十八度に達した瞬間にスイッチを切る。
そうすれば、残った水分と余熱で完璧な「蒸らし」が実現できるのだ。
彼らはこの最適温度を元に、スイッチに使われるバイメタルの特性を精密に調整した。
改良された試作品を、再び家庭でテストしてもらう。
今度は苦情は聞こえてこなかった。
代わりに、驚きと喜びの声が次々と寄せられた。
「今度は、完璧よ!」
「本当にスイッチを入れただけで、美味しいごはんが炊けるなんて……」
一年以上にも及んだ暗く長いトンネルの、その先に確かな光が見えた瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「蒸らし」の工程こそがごはんの美味しさを決める最後の重要な要素でした。スイッチが切れてからさらに十数分、じっくりと蒸らすことで米の芯までふっくらと炊きあがるのです。
さて、ついに技術的な課題のすべてをクリアした電気釜。
いよいよ製品として世に送り出される日がやってきます。
次回、「スイッチ一つの革命」。
それは日本の台所の風景を永遠に変える革命の始まりでした。
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