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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第2部:外食文化の設計者編 ~レストランの「仕組み」を創った人々~
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牛丼一杯にかける0.1秒の戦い 第3話:秒速の、フォーメーション

作者のかつをです。

第十七章の第3話をお届けします。

 

牛丼屋のあの独特のU字カウンター。

今回は、その当たり前の形の裏側に隠された驚くべき人間工学的な秘密に光を当てました。

すべての形には、理由があるのですね。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

究極のおたまは完成した。

しかし、厨房のオートメーション戦争はまだ始まったばかりだった。

 

次なる分析の対象。

それは、「厨房のレイアウト」と、その中での店員の「動き」そのものだった。

 

開発チームは厨房の床にテープでマス目を引いた。

そして、ビデオカメラを設置し熟練の店員が牛丼を提供するまでの一連の動きを、コマ送りで徹底的に分析した。

 

注文を聞く。

振り返る。

丼を取る。

一歩移動する。

ごはんをよそう。

また振り返る。

肉を盛る。

客の前に出す。

 

そのすべての動作をストップウォッチで計測し、店員が厨房内を何歩歩いたかを記録していく。

 

その地道なデータ分析の中から、驚くべき無駄が次々と浮かび上がってきた。

 

「振り返るという動作が多すぎる」

「ごはんをよそう場所と肉を盛る場所が離れすぎている」

「丼の置き場所が高すぎるため、腕を余計に上げ下げしている」

 

その一つ一つはほんのコンマ数秒、ほんの一歩の無駄に過ぎない。

しかし、一日に何百杯という牛丼を提供する戦場においては、その小さな無駄の積み重ねが巨大なタイムロスと体力の消耗に繋がっていたのだ。

 

「すべての作業が体の正面、手の届く半円の範囲内で完結するようにできないだろうか」

 

チームは、理想の厨房レイアウトを追求し始めた。

それはまるで、F1マシンのコックピットを設計するような緻密な作業だった。

 

彼らがたどり着いた一つの答え。

それが、U字型のカウンターだった。

 

カウンターの内側に店員が一人立つ。

その店員をぐるりと囲むように、U字型に客席が配置されている。

そして、店員の背後、手を伸ばせばすぐに届く場所に、ごはんの保温ジャーと肉の煮込み鍋が設置されている。

 

この完璧なフォーメーション。

 

これにより店員は注文を聞いてから振り返る、そのたった一回の動作でごはんをよそい肉を盛り、そして再び客の方を向いて商品を提供することができる。

厨房内を歩き回る歩数は、「ゼロ」になった。

 

さらに、このU字カウンターにはもう一つの大きなメリットがあった。

 

一人の店員がカバーできる客席の数が、劇的に増えたのだ。

直線のカウンターではせいぜい5、6人が限界だった。

しかし、U字カウンターなら10人以上の客をたった一人で同時に相手にすることができる。

 

省力化とスピードアップ。

その二つの究極の目標を同時に実現する、魔法のレイアウト。

 

それはもはや単なる客席の配置ではなかった。

0.1秒を削り出すために人間の動きの科学を極限まで突き詰めた、美しき「戦闘陣形」だったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

このU字カウンターは吉野家がその原型を作り上げました。一人当たりの占有面積を最小限に抑え、客の回転率を極限まで高めるという都心の一等地で戦うための究極のソリューションだったのです。

 

さて、道具もレイアウトも完成した。

しかし、彼らのオートメーション戦争はまだ終わりませんでした。

 

次回、「究極の、マニュアル」。

今度は、人間の「頭の中」に科学のメスが入ります。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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