深夜営業を始めた喫茶店の静かなる挑戦 第5話:あなたの街の、止まり木で(終)
作者のかつをです。
第十六章の最終話です。
一つの挑戦がいかにして社会のインフラとなり、そして人々の多様な生き方を支えていったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、深夜営業の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
時代は移り変わった。
バブルは弾け、日本は長い停滞の時代へと入っていった。
働き方は見直され、深夜まで煌々と明かりが灯るオフィスは少なくなった。
若者たちの夜の過ごし方も多様化した。
かつてあれほど当たり前だった「24時間営業」の看板を下ろす店も増えてきた。
時代の大きな波の中で、深夜のレストランが果たしてきた役割もまた少しずつその姿を変えようとしている。
しかし、江頭匡一が歴史に刻んだ功績が色褪せることは決してない。
彼が初めて日本の都市に「眠らない時間」という新しいフロンティアを切り拓いた。
その開拓の精神がなければ、私たちの今の便利な生活はなかっただろう。
24時間いつでも開いているコンビニエンスストアも、深夜まで営業するスーパーマーケットも。
そのすべての源流には、あの日の青山の小さなレストランの孤独な挑戦があったのだ。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あの渋谷の街。
終電を逃した一人の若い女性がノートパソコンを開き、ファミリーレストランの片隅の席でイヤホンを耳に当てている。
オンラインの英会話レッスンを受けているようだ。
彼女は、知らない。
今、自分が当たり前のように使っているこの深夜の静かな時間が、かつて一人の経営者が終電後の砂漠のような街にオアシスを作りたいと願った、大きな夢の続きだということを。
誰も来ないレストランで、それでも未来を信じて灯りを灯し続けた名もなき従業員たちの、誇りの結晶だということを。
歴史は、遠い昔の英雄譚の中だけにあるのではない。
私たちの、この何気ない日常の一杯のコーヒーの中に、確かに息づいているのだ。
やがて、レッスンが終わる。
彼女は窓の外を見つめた。
東の空が少しずつ白み始めている。
新しい一日が始まる。
彼女は伝票を手に、静かに席を立った。
夜の止まり木で少しだけ羽を休めた一羽の鳥。
その鳥がまた明日へと羽ばたいていく。
そのささやかな再生の物語を、レストランの灯りは今夜も静かに見守り続けている。
(第十六章:午前0時のコーヒータイム ~深夜営業を始めた喫茶店の静かなる挑戦~ 了)
第十六章「午前0時のコーヒータイム」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
働き方改革や人手不足といった社会の変化の中で、「24時間営業」のあり方は今大きな見直しの時期を迎えています。しかし、深夜に安心して過ごせる場所が必要だという人々のニーズがなくなることはないでしょう。
さて、外食産業の「時間」と「空間」を変えた物語でした。
次なる物語は、今度は食の「効率」を極限まで追求した、もう一つの厨房革命の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十七章:厨房のオートメーション戦争 ~牛丼一杯にかける0.1秒の戦い~**
「うまい、やすい、はやい」。
そのシンプルな標語を実現するために牛丼チェーンの厨房では、一体どんな壮絶な戦いが繰り広げられているのか。
その知られざる舞台裏に迫ります。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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