四話 使いこなす
俺は真っ直ぐ敵に背を向けて、リングの端に立つ。
見下ろすのは霧崎、熊切、天翔だ。
誰にするか、いや、一気にまとめてできるのか?
いや、今はいいな。
俺は屈んで、でも彼らにも聞かれないように言った。
「天翔、お前の能力を俺にくれ」
そう言って微笑んでから、立ち上がって敵を正面から捉える。
‘‘任意のタイミング‘‘これが肝だ。
ビビってる時点で有効範囲が限られているか極端に弱いかの二択。
本当は素手格闘でも勝てそうだが俺も自分の能力を試したい。
発動時間は───10秒後。
そして、俺は飛び出した。
一気に駆け込み、プレッシャーをかける。
だが、俺が天翔の能力を真似て殴りかかったとき、ガードされた。
拳の威力が、消えた?!
咄嗟に下を見ると、北島は地面に手をついていた。
分かっちゃった。
俺は小声で唱える。
「北島の能力を無効化しろ」
次の瞬間、俺の喉がイカれた。
今までに感じたことのない激痛が俺を襲う。
だが、顔には出さない。
そのまま能力を行使し、北島の腕をへし折る。
続けて足を折り、その場に這いつくばらせる。
「うぐあぁぁぁ」
情けない悲鳴を上げている。
「北…島に……喋ら…せるな」
今ここでリタイアされても面白くない。
そこで俺の喉は潰れた。
これ以上の能力の発動は不可能か。
でも今の俺には天翔の能力がある。
そして速度・パワーもが五倍になり威力が乗算された俺のパンチが北島の鳩尾にクリティカルヒットした。
声を上げる前に北島は意識を失う。
見え見えなんだよ、バーカ。
勝負は俺の勝ちとなった。
これではっきりしたな。
俺の能力は一定時間無双可能、だが使いすぎればしばらく能力を使えなくなる。
タイミングと難易度が肝心だな。
「おい、友一。さっきの、どういうことだよ」
いきなり話しかけてきたのは天翔だ。
「ああ、だから、能力を借りたんだよ」
そこで、霧崎が言った。
「ならなんで1stプログラムでオレの能力を借りなかったんだよ」
確かに、そう思われても無理はない。
「能力を知られないためさ、実際俺は二時間の話し合いのとき嘘を吐いた」
そこで全員ハッとしたような顔になった。
「俺たちを、騙したのか?」
熊切が訊いてきた。
「言ったろ、1vs1の可能性をなぜ考えなかったって。そもそもチーム戦なら俺は能力を使う気はなかった」
そうとだけ伝えて壁に寄りかかる。
能力についての言及は避けたが、これで俺は能力をコピーする能力だと思われたはずだ。
とりあずこれで両チーム二勝二敗。
香椎鈴〇 猿渡悟✕
多々良りんご✕ 熊切真〇
続命院冴子〇 霧崎円✕
北島浩二✕ 神楽坂友一〇
つまり、天翔次第で勝敗が決まる。
「五回戦を始めまーす!」
その声とほぼ同時に、向こうの扉が開いた。
「この時を待っていたよっ!優利ちゃん!」
声が響いた。
知り合いか?
「天翔優利、星野王子。リングに上がってくださーい」
王子……キラキラネームだ……
「もう二度と会えないと思って、絶望してた。だけど死すら僕たちを分かつことはできなかったんだ!」
姿を現したのは、緑がかった金髪の青年。
「あの野郎……」
天翔が震え出した。
「おい、大丈夫か?」
「てめえも生きてやがったのかっ!」
天翔が駆けだそうとした。
次の瞬間、俺も飛び出す。
手枷を利用し天翔の首に腕をかけ、後方から拘束する。
「落ち着け、ここで怒っても無意味だ」
「離せっ!あいつのせいであたしはこんな所に!ぶっ飛ばしてやる!」
かなり取り乱しているな、一体何があったっていうんだ。
それから、天翔と星野の決闘が始まった。
勝負は一瞬だった。
天翔と星野は少し会話をし、その後天翔が本気で殴ってリングアウト。
筋力だけじゃないな。
スピード、バネ、腕力、全てのステータスが五倍。
生身で受けてたら死んでたかもな。
「三勝二敗により勝敗が決定したので2ndプログラム『チーム戦』を終了しまーす」
そこで、突然、あの大砲女が現れた。
「このまま3rdプログラムに進んでもらいますが、その前に……皆さんにお話がありまーす」
そう言って相手チームを見た。
「負けたチームの処遇についてでーす!まさか殺しはしないだろう?今度こそペナルティがあるかも?脅すだけで実際に殺すわけないだろう?ノンノン。もちろんただでは済ましませーん」
そう言って今度は後ろから目隠しをされた。
「これから別室に移動して敗北チームにはペナルティを受けてもらいまーす」
悪魔のようなヤツの声が、脳内に木霊した。
目隠しをされた状態で歩かされるのはきついな。
しかし、一体何する気だ?
だが、目を開けるとそこは、高級そうなレストランだった。
「ようこそ勝利チームの皆さん♡ではこれより小休止に入り、敗者チームにはペナルティとして恥ずかしい格好で勝利チームの給仕係を行ってもらいまーす」
そこには、バニーガールのコスプレをした、シーツ女と眼鏡っ子、パチンコ女がいた。
隅には水を飲んでいる北島がいた。
あんだけボコっちゃったが、大丈夫だろうか。
なんて、心配する訳ねーじゃん。
だが、これは予想外だ。
食卓につき、四人で座る。
しかし、モリモリ食っているのは剣坊元い霧崎だけのようだ。
「あんたよく食えるわね、食欲なんかねーよあたし」
天翔が言った。
霧崎は食べるのに夢中なのか返事はない。
そのとき、俺のカップに紅茶は注がれた。
「良かったぁ、こんなペナルティでぇ。確かユウイチくんだったよね?試合中仲間の能力を借りるとか驚いちゃった。お姉さん、君に興味あるなぁ」
話しかけてきたのは猿渡を葬ったシーツ女だ。
「へぇ、そりゃいい。俺も君に……なんていうと思った?得体の知れないお前なんかと話しても時間の無駄だ、失せな」
俺は声で判断し、顔を上げることなく言った。
「そ、残念……」
そう言って離れていった。
あんな不気味で奇怪な能力をもった奴と関わっても碌なことがない。
「さて、小休止も終わりいよいよ3rdプログラムに入ります!ここからはチームごとに違う道を行ってもらいますのでみなさん頑張ってください!」
そうハット大砲女は言った。
それから俺たちは歩き出した。
二つの暗い道に分かれて。
しばらく進んでいくと、道が五つに分かれている。
「ここからは全員別々の道を進み、その先で指示に従うように」
そうガタイのいいグラサンが言った。
「っていうことは……」
「ここでチーム解散?」
霧崎と天翔が切り出した。
「次会ったときは敵かもな」
そう霧崎は言って、歩いて行った。
「俺も行く」
今度は熊切も去っていった。
二人きり……
気まずいな。
もう俺も行くか。
そう思って一歩前へ足を出す。
「じゃあな天翔、達者で」
それだけ残して正面の道へ進む───
はずだったが、天翔に腕を掴まれた。
「待ってくれよ、友一」
振り返ると、少し頬を染めている天翔がいた。
「どうした?体調でも悪いのか?」
「違えよ!ただ、その……」
「ああ、なんだ?」
「無事でな!」
そう言って天翔も駆けていった。
「ふぅ……これで足手纏いは消えたな」
俺も再び歩き出す。
待ってろ運営、クソハット。
お前らは俺が潰してやるから。