三話 命懸け
「天翔、ちょっといいか?」
もしもだ、もしチーム戦ならコイツの能力がカギになる。
「優利」
何だコイツ、話通じないのか?
「天翔って可愛くねーしキライだから、優利でいい」
ああそう意味か、主語を言えよ。
国語の成績1だろコイツ。
「ああそうか優利、ならとりあずお前の身体能力を見せてくれ。ジャンプで良い」
五倍、つまり元のコイツが運動音痴ならクソ雑魚ってことになる。
「別にいいけど」
そう言って準備を始めた。
「あ、待て。スカート、気をつけろよ」
下からだと見える可能性がある、興味はないが冤罪を吹っかけられても迷惑だ。
そして天翔は大きく跳ぶと同時に左手でスカートを押さえた。
ふぅ……
まじで面倒だな。
その結果は、軽々と天井に手をつけてしまった。
なるほど、全体的な強化か。
「お疲れ、大体分かったな」
俺の言葉に、他の奴らはポカンとしている。
「人間に身体能力なんて能力はない。筋力か、体幹か、バランス感覚はどうなのか。そのすべてを見るためにジャンプさせたんだ」
これくらい分かれよ。
そのとき、隣に座る天翔が小声で話しかけてきた。
「なぁ……前の壁壊したのって……」
やはり隣の部屋の住民はコイツだったか。
「確かに俺だ、だが言ったらお前は5vs5をやる前に現実世界から永久退場することになるぞ」
俺はそう忠告してから思考を重ねた。
「お前ら、言っとくけどな。次のチーム戦、どんな相手でもチャンスがあれば迷わず殺せよ」
2ndプログラムを控えた俺たちに猿渡が言った。
「なんだと?」
「あんた急に何言ってんの?」
どうやら天翔も熊崎も分かっていないようだ。
「最初に大砲女が言ってたこと覚えてるか?すべてのプログラムに共通するルール。『他のモニターを殺してもペナルティーにはならない』自分の身を守るためには能力を知ってる奴は少ない方がいい」
そう、この場で能力は切り札だ、それを知られていては圧倒的に不利。
つまり今回も、チーム戦なら相手チームを皆殺しにするのが一番いい。
「どれだけ真っ当な人間でも状況次第じゃ躊躇いもなく人を刺すもんだ。俺はそういうヤツを山ほど見てきた」
はぁ……
「なら、なんで気づかねェ」
俺は口に出していた。
「あ?」
猿渡が振り返る。
俺はその前に立つ。
「なんでそれだけ慎重なのに、このゲームが‘‘普通の‘‘チーム戦って可能性しか考えない?さっきは言わなかったが個人でタイマンして勝敗を決める可能性もあるだろうが」
俺の言葉を聞き、全員が顔を歪めた。
「あくまで可能性だ。まさか俺たちの能力に頼る気だったわけじゃねえだろ、猿渡。自分の命は自分で守れよ」
俺は彼の肩を軽く叩いた。
試験場は、20m×20m程度の正方形だった。
タイルが綺麗に並べられている。
その会場の奥に、対戦相手がいた。
生真面目そうで小さな優等生、気が強そうなJC、高身長ビビり、シーツ(?)を羽織った得体のしれない女に、隠れている臆病者。
危険そうなのはシーツ女か。
「もう遅いだろうが俺からも念押ししておこう。敵は殺せるなら殺せ、じゃないと自分が殺されるぞ」
そう言ってから、壁に寄りかかる。
もちろんこんなもの建前だ、本当は全員相手をぶっ殺してくれないと困る。
「これより2ndプログラムを開始します。両チームがこれから指名した人物が一対一で闘技場で戦い、その戦績で勝敗を決定します。リングアウト、敗北宣言、気絶、死亡でのみ決着とします」
ほらな、言った通りだ。
「神楽坂の言った通りじゃねえか……」
剣坊が呟いた。
「猿渡悟、香椎鈴。闘技場に上がってください」
まずはルパンか。
だが、勝負が始まると相手の怪しいシーツ女は猿渡にリタイアしろと言った。
条件を飲めば、自身の体で支払う気か。
「おい猿、飲むなよ」
その後猿は、コイントスで決めようと持ち掛けた。
表か、裏か。
相手の能力が不明な上に自身の能力は雑魚、確率を上げたのか。
だが、その作戦には決定的な弱点がある。
それは───
猿がコインを上げ、香椎は表に賭けた。
そして、猿が上空のコインに視線を移した瞬間、‘‘見えた‘‘。
「猿避けろ!」
俺の叫びも間に合わず、猿の胴体には五本もの刃物が突き刺さっていた。
そして、数秒で死んだ。
チッ、死ぬなら香椎の能力くらいはっきりさせてから死ねよ。
「勝者 香椎鈴」
アナウンスが響いた。
そして、救護班のような連中が来たが、猿は無理そうだ。
「ちょっと待てよっ!」
天翔がリングに上がろうとするのを止める。
「今は上がらない方がいい、少し落ち着けよ」
これだからすぐ感情的になるヤツは苦手だ。
話が通じない上に自分の意見が正しいと思い込んで物を言う。
「馬鹿な野郎だ。あれだけ警戒していたのに最後の最後で油断した。慎重に対峙していれば死ぬことはなく能力くらいは分かったかもしれぇのに、使えねぇ」
剣坊が言った。
「何言ってんだよ……おサルが殺されたのによくそんなこと……」
天翔は友情ごっこが好きなのか。
「今のは俺も聞き捨てならんな、戦って死んだ仲間に言うことじゃねえ、取り消せ」
熊切、コイツも仲良しこよしが好きなのか。
プロレスラーとかいうから期待したがとんだあまちゃんじゃねえか。
「戦って死んだ?笑わせるなよ。アイツは逃げて死んだんだ、あの作戦は敵に背中を見せて逃げるようなもの、仲間じゃねえよ」
俺の前に熊崎が立った。
「もう一度、言ってみろ」
見下されんのは好きじゃねえってのに。
「何度でも言う、あいつは死んだ。さっさと切り替えろ、チームでも負けたら俺がお前を殺すぞ?」
190cmほどの熊切を睨み返す。
「お前……」
「愚痴でも文句でも後で全部聞いてやる、だから今は勝つことだけを考えろって言ってんだ」
俺は天翔と熊切を黙らせる。
「第二回戦、熊切真、多々良りんご。闘技場に上がってください」
あの眼鏡っ子優等生か。
異様に落ち着いているな。
それほどまでに強い能力なのか、心理戦を持ち掛けているのか。
「熊切、あんな中坊に負けんなよ」
ここで負けられたら困る。
だが、決闘開始から0.2秒で多々良は棄権した。
これで1vs1、まだ勝てる。
「霧崎円、続命院冴子。闘技場に上がってください」
とうとう剣坊か。
「負けるなよ、お前が負けると色々面倒だ」
俺は彼に声をかける。
「うっせぇ、俺はお前に勝つまでは負けらんねぇ」
そう言って彼は闘技場に上がった。
決闘は、続命院の勝ちで終わった。
相手の能力はパチンコ玉を巨大な鉄球に返る能力、だが最後の最後で男の急所の真下で鉄球に変化し、致命傷を受けた。
リング下に運ばれた霧崎に声をかける。
「なぁ、お前、アホか?」
横たわっている霧崎は、驚いた顔をしている。
「なんであんな雑魚に負けた?俺に勝つんじゃなかったのか?おい、答えろよ」
「……すまねぇ、最後のは油断した」
油断、俺が嫌いな言葉だ。
「なら、‘‘次‘‘からは油断すんな、それだけ覚えておけ」
「リングの整備が終わったので再開します。神楽坂友一、北島浩二。リングに上がってください」
やっと俺の番か。
「ねぇ、もしあんたが負けたら」
天翔が話しかけてきた。
「大丈夫だ、俺は負けないしお前も負けない。それで勝てる、だろ?」
俺は威圧するような目ではなく穏やかに言う。
リングに上がると、相手はボロボロの高身長ビビりだった。
さて、相手の能力が分からない以上迂闊に飛び込むのは危険。
しかし、俺の能力はまだ知られたくない。
いや、待てよ。
言った通りのことを任意の時間に起こせるなら能力のコピーも可能か?
試すか。
そして、決闘が始まった。
相手は動かない。
俺の能力を知りたがっているのか。
ビビりだな。