二話 個人主義
俺は封筒を手に取った。
1on1ってことはさっきいた奴らの誰かとバトルってことだよな、弱いのだと困るな。
封筒内の紙にはこう書かれていた。
『《契約者》神楽坂友一さん、あなたの能力は‘‘自分の発した言葉が任意の時間に現実になる‘‘です』
何だこれ……もし能力の制限がないならこれはチートだ。
だがあの運営がしらけるようなことをするとも思えない。
能力は自分で調べろってメッセージか。
言霊……
時間は多くある、試してみるか。
俺は部屋の壁を見た。
これ、壊せるか……?
俺は壁に向かって言った。
「ぶっ壊れろ」
その瞬間、喉に大きな痛みが走った。
同時に巨大な物音も耳に響いた。
そして、壁を見る。
すると、壁の向こうにいた少女と目が合った。
「はっ?!」
向こうは驚いているようだ。
「わ、悪い。試してみたら、案外強かった」
俺は一応頭を下げる。
これから敵になる可能性を秘めている相手との会話は控えるべきだろう。
俺は小さく言った。
「壁よ直れ」
すると、ゆっくりと壁が元通りになっていく。
最後、金髪の少女が何かを言っていた気もするが、気のせいだろう。
俺はベットに横になり、眼を閉じた。
初手で殺し合いになることはないだろうが、野蛮は相手だとこっちも容赦はできないからな……
20時間後
「おい一年坊、お前は対戦が始まったらすぐに降参しろ。いいな」
俺は教室を模した空間の中、対戦相手にそう言われていた。
すらりとした身体、バンダナに長髪。
「断る。オレがお前に負けることはない」
「いい度胸してんなぁ……」
そして、1on1開始のアナウンスが響いた。
手枷が緑色に光る。
五秒か。
アイツは木の枝を持っているが、それだけじゃ判別は不可能だな。
とりあえず能力を使わずに勝つ方針で行くか。
手枷が外れた瞬間、相手は俺に斬りかかってきた。
しかし途中で木の枝が剣に変わった。
なるほど、木の枝を剣に変える能力って感じか。
断定はできないが、大本はあっているだろう。
男の斬撃を躱しつつ、隙を伺う。
気絶させればいい話だ。
相手が大きく剣を振りかぶった。
その瞬間、俺は低く屈み、相手の顎下に強烈なアッパーを打ち込んだ。
ノックバックするように仰け反りながら後方に吹き飛ぶ男。
この機を逃せばチャンスがないかもしれない。
そのまま机に衝突した男に接近し、足を上げる。
「蹴りやすい位置にいてくれて助かるよ」
俺は丁度自身の腰程度の高さにある相手の頭を力強く蹴った。
相手は大きく左に吹き飛び、アナウンスで俺の勝ちとなった。
能力を使わずに勝てたのはよかったな。
次のプログラムまでは5時間のようだ。
結局能力を見せてしまったのは昨日の奴だけ。
まあ能力を完全に把握されたわけじゃないし、大丈夫だろう。
5時間後
部屋をノックされた。
手枷が発動し、また無機質な廊下を歩く。
はあ、この能力で手枷を外せたらこんな奴ボコせるのにな……
「中へ」
誘導され、部屋の中に入る。
目の前には、汚い帽子を被った黒髪ロン毛野郎とル〇ン三世似の猿、昨日の生意気キッズにどこか見覚えのある金髪女子高生だった。
「あ」
気まずいな……舐めプで倒しちゃったし嫌われてるよな。
まあいいか。
「既定人数に達したためこれより2ndプログラムの説明を行います」
机の上に置かれた小さなスピーカーが喋った。
「2ndプログラムは5vs5に分かれてのチーム戦となります。二時間後に試験場に移動します。以上です」
そう言って音声は途絶えた。
なるほど、‘‘普通に‘‘考えるならチームでの協力戦だ。
しかし、剣道の団体戦のように一人ずつ1vs1していく可能性もあるわけだ。
まあ、可能性としては低いか。
そのとき、ルパ〇三世が口を開いた。
「よ~するに俺たちは味方同士ってわけだ。次は協力して敵チームを倒さにゃいかんから話し合えってことか」
まあ、恐らくは、そうだろうな。
「俺は猿渡ってモンだ。能力は───」
そう言ってルパンは服のボタンを投げた。
そして、キャッチと同時にボタンを引っ張った。
すると、ボタンが縄に変わったのだ。
「この通り、‘‘ボタンを縄にする能力‘‘だ」
雑魚じゃねえか……
「えっ!あんたまじでそんな能力なの?!しょぼっ!」
JKが言った。
「それもう手品だろ」
みんな、辛辣だな。
「ええいそう言うな!オレが一番そう思ってんだから!」
ルパンも負けじと言い返す。
「えらそーに仕切っといて超お荷物じゃん!」
容赦ないな。
「そういうネェちゃんはどうなんだよ?!」
確かに気になるな。
「ネェちゃんって言うなあたしは天翔優利だ。能力は‘‘身体能力が五倍になる‘‘」
そう言うと猿渡は一気に弱腰になり、剣坊の方を見た。
「霧崎円、‘‘木の枝を剣に変える‘‘能力」
「二人とも強そうでいいなぁ……そっちの旦那は?」
そういって大男の方を見た。
「熊崎だ。能力は‘‘二秒間無敵になる‘‘らしい」
「らしい?」
剣坊が聞き返した。
「運営が勝手に植え付けた能力など使う気はないし使う必要もない」
あー、確かに体格いいもんな。
「プロレスラーだ、外界ではな」
「お前さんは?」
とうとうオレの番か。
「俺は神楽坂友一、能力は小物を少し移動させられる程度のモンだ。気にしなくていい」
すると、猿渡が少し笑顔になった。
「よかったぜ、俺と同程度の奴がいて」
そのとき、ふとJKからの視線を感じた。
俺はそれを視線で黙らせる。
いざとなれば喉がぶっ壊れるかもしれないが消すしかなくなってしまう。
「さて、あらかた自己紹介は終わったな……まだ時間はあるけどどうする?」
そして、猿渡が能力の話に移そうとした瞬間、俺は口を挟む。
「霧崎、昨日の怪我は平気か?」
「へぇ、ってことはお前ェ、‘‘小物を動かす‘‘能力に負けたのか?!」
猿渡が剣坊を弄り始めた。
「そう言うな。俺は能力じゃなくて肉弾戦に持ち込んだだけだ」
そう話を逸らす。
はぁ……どいつもこいつも短絡的な阿呆ばかりだな……
個人戦だといいんだが……
俺の能力で壁を破壊することは可能だと分かった。
ただ人を殺せるのか、またその代償は何なのかまでは分かっていない。
さて、どうするか……