一話 能力
俺の名前は神楽坂友一、普通の高校生だ。
年齢は16歳、趣味は特にない。
強いて言うなら読書だが、あまりラノベや自己啓発本は好きじゃない。
「おはよー」
二階の自身の部屋から出て、階段を降りる。
まあ、返事は返ってこないが。
オレの親は共働きだ、一生懸命に働いている。
そんな中、オレときたら……
いつも通りの自虐を挟みつつひとりで朝食を済ませる。
「確か今日は全校集会があった気がする。面倒だな」
ストックしてあったカップ麵を食べ終え、自室に戻る。
ハンガーに架けている制服をとり、羽織る。
季節は冬。
普通なら上に何か着るのだろうが生憎俺は持ち合わせていない。
「いってきまーす」
返ってこないと分かっていても一応言う。
これは親へではなく育ててくれた家に対して言うのだ。
感謝している。
いつも通りポケットに入れた古い機種のスマホで音楽を聴きながら歩き出す。
情〇大陸なんかを聞いていると何やら壮大な物語が始まりそうでワクワクするんだが、分かってくれるか?
歩行者信号が青になると、オレは更に歩き出す。
今日は月曜日、また一週間学校に行くのか……
ナイーブな気持ちになっているとふと、前に何かを‘‘感じた‘‘。
顔を上げると、帽子とコートを装備した大男が目の前に立っていた。
一瞬で察する。
あ、この人関わらない方がいいタイプだ。
そう思い、バックを背中に背負い直してスピードを上げる。
後ろからは大きい足音が響いている。
まずいな……
恐らく、いや確実に俺狙いだな。
撒くか。
俺は住宅街に逃げ込み、狭い路地に抜ける。
多分一生追ってくる、なら殺すしかない。
まずあれは一体なんだ?
あー、クソ、憂鬱だ。
月曜から俺の平穏を奪いやがって。
殴り合いで勝てる確率は0.1%程度か。
捨てだな。
なら、代案だ。
俺は一気にカーブし、山の麓まで来る。
目の前には、廃工場。
「要は殺せば俺の勝ちだろ」
俺は工場のてっぺんからあの大男を見下ろしていた。
全身包帯グルグル巻きの上にあの異様な姿。
まともなのじゃないことは確かだが、夢であってくれると嬉しい。
そのとき、男と目が合った。
次の瞬間、男は大きく跳んでいた。
すぐにオレの目の前まで迫る。
「想定内だよ、バーカ」
俺は一気に迫る巨体と床にガソリンをばら撒いた。
そしてそのまま巨体に向かってライターを放り投げる。
一気に男が燃え上がった。
しかし、まだだ。
俺はそのまま一階分上へと駆け抜ける。
男が燃えている内に殺す。
床に転がっている鉄パイプをしっかりと握り窓をぶち破る。
真下には燃え盛る大男。
だが動けないお前はただの大きい的だ。
そのまま落下中に狙いを定め、俺は大男の頭を貫いた。
動きが静止する。
流石に不死身ってわけじゃなさそうだ。
黒焦げになった大男を一瞥してから俺は振り向いた。
「知能はなくて助かった……」
「おめでとう、ユウイチくん。ここに来るまでは想定内だけど私のペットが殺されちゃったしね」
目の前にいたのは、怪しい女だった。
黒いハットを被り、杖を突いている。
「でも残念っ!こっから先のイベントは決まってるのよ。ここで君は死ぬ」
次の瞬間、俺は横に跳んでいた。
「っぶねっ!」
俺は左足でスピードを押さえつつ右手を地面につきバランスを整える。
「もう、面倒な子だなぁ」
再び、避けようとしたとき、痛みが体を襲った
咄嗟に下を見ると、俺の左腕がなくなっていた。
眼を開けると、そこは病院のように見えた。
目の前には白衣を来た数人と明るい照明。
「神楽坂さん、体起こせます?」
言われた通りに体を持ち上げる。
すると、自身に手錠がつけられていることに気付いた。
「立てるなら行きましょうか別室で説明があります」
促され、立ち上がる。
俺は、あのときの姿のままだった。
あの女に吹き飛ばされた左腕もくっついてるし。
「なあ、ここはどこだ?」
返事はない。
答えない気か。
まあ、仕方ない。
「どうぞこちらでお待ちください」
そう言って一人の男が扉を開けた。
キーカードを使っている辺り勝手に出入りすることはできないとみるべきか。
中は、広い宴会場とステージの様な造りになっている。
そして中には俺と同じように手枷をつけられた見知らぬ老若男女たち。
一体これから何が行われるんだろうか。
さっさと帰りたい。
そのとき、ステージにスポットライトが当てられた。
そして、あの時の女が姿を現した。
「皆さんはめましてっ!美少女魔術師魅音ちゃんでぇす!私は貴方たちのナビゲート役を務めます。まずはおめでとう、貴方たちは我々のプロジェクトの栄誉あるモニターに選ばれました!」
プロジェクト……モニター……
今は現状把握に脳のリソースを使った方がいいな。
「まずは皆さんに現状の認識をしてもらいます。一つ、皆さんには既に戸籍が存在しません!」
「そう、‘‘外‘‘ではすでに死んだことになっています。家族や友人が心配する可能性もなく当然戸籍がないため人権もなく我々の指示するルールの中でしか自由はない」
要するに、俺たちは全員得体のしれないアイツらの実験用モルモットってわけか。
生かすも殺すもアイツら次第。
「そして二つ目、ないない尽くしの貴方たちに唯一新しく与えられたもの─────」
そのとき、ステージに一人の男が上がった。
どうやら彼は現状に納得していないようだ。
まあ、納得してる奴なんていないと思うが。
そして、男が襲い掛かった次の瞬間、男の体に穴が開いた。
更に、女の腕は大砲へと変化していた。
「見ての通り私には、‘‘手を大砲にする能力‘‘があります。そしてここにいる全員に同じような能力を与えました。つまり貴方たちは能力の実験モニター。これから様々なプログラムに参加していただくという訳です!」
人権侵害も甚だしい。
あいつを殺せばここから出られるのだろうか。
しかし手錠がある以上アイツと戦うのは無理か。
「それとモニターとして有用でないと判断した場合彼のように速やかに退場していただきます♡」
参ったな……あいつは見せしめかよ。
「では知っておく必要のある基本ルールと最初のプログラムについて解説します。まずは皆さんの手枷を見てください。これは貴方たちに与えた能力を制御しています。赤の点灯が緑に変わってから五秒後に両腕は自由となり能力も使用できます」
「それと能力によって他のモニターを殺害した場合ですが、特にペナルティはありません。これもすべてのプログラム共通なので覚えておきましょう。ここまでで何か質問は?」
それから何人かが質問をしたが、分かったのはコイツらは基本的に俺たちの個人情報を把握している。
そして、コイツの機嫌を損ねたら体に風穴が空くってことだけだ。
いきなり、少し離れた位置に立っていた女子高生が手を挙げた。
「誰も聞かないみたいだから聞くけど、なんであたし達が選ばれたの?」
「いい質問だね。でも答えは単純、偶然だよ。そこには理由も意味もなく貴方たちは選ばれた。宝くじや交通事故にあったとでも思っておけばいいわ」
そのとき、舞台袖からもう一人の女が現れた。
「今から私ヤンプログラムまでの誘導と説明を引き継ぎますね。まず皆さんが気になっているであろう最初のプログラムは『1on1』!能力を使ってのシンプルな決闘です」
「これから各自個室に案内します。能力の確認と練習するいいですね。20時間後にランダムで決められた相手と戦う」
20時間、それまでに個人の能力の把握が求められるわけか。
そのとき、あの魔術師が再び大砲をぶっ放した。
「最後にもう一度だけ念押ししておくね♪有用ではいと判断したモニターはすぐに処分します。それを忘れないでね」
嫌な顔で笑いやがる。
「では名前を呼ばれた人から退出して案内人について行ってください」
俺の部屋に入ると、一瞬で外側からロックされた。
しかし内側にはドアノブすらなし、丁寧なこった。
まあいい、まずは能力だ。
机の上には、鉛筆、髪、封筒が置いてあった。
『この部屋にはベット、トイレ、冷蔵庫、能力に関するもの、紙10枚、鉛筆があります。1on1はどちらかが死亡・気絶・降参のいずれかで終了します。あなたの能力は別紙(封筒内)に記載してあります』