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黒騎士の証明

 丘上に陣取っているセンチネルのコックピット内で、リネットは目の前のモニターを睨んでいた。モニターは3つに分割されており、左右の2つには上空からの景色が映っている。

 【オービター】─センチネル付随の偵察ドローンだ。ドローンは単体で運用するのが一般だが、センチネルはそれをタイタンに組み込んでいるという点で他機体とは一線を画す。本体より一定の距離内でしか活動できないものの、一機体に複数視点があるのは画期的だ。さらにそこに【アフェリオン】─王国特注の光学狙撃ライフルが加わる。

 本体からの視点、そして上空の2地点から敵の位置を立体的に把握し、気づかれぬ間にアフェリオンの一撃で仕留める。初見の相手は全てそれで終わっていた。なのに──なのに、あの機体は。

 タイミングは完璧だった。威力も事前に計算していた通りだった。遮蔽に隠れて気が緩んだところに頭部狙撃(ヘッドショット)──それをあの機体は()()()()()()()()()()()

 タイタンは人型をしているとはいえ、人間の体ほど複雑な内部構造はしていない。もちろん手足や胴体などの関節部はそれなりの構造を取り込み、開発も進んでいるが、首などは2本の軸で回転と上下移動ができれば十分だ。なのにあの機体は、あいつは、背後からの狙撃をノールックで避けたというの?

 思いがけず会話に入ってきたテオにも動揺を隠すためにキツく当たってしまった。それがかえってリネットを苛立たせる。──あぁ、ここでも自分はまた繰り返すのか。

 境界ギリギリの場所でオービターを飛ばせていると、黒い影が動いた。第一接触から10分ほど経った頃である。ひとまず今は戦闘に集中、とリネットは操縦桿を握り直した。

 モニターに捉えたアーサーは先ほどと同じように遮蔽沿いに近づいてきている。オービターに気づいている素振りはない。

「また同じことをやるつもり?」

 今度は外さない、とリネットはアフェリオンの銃口の向きを調整した。

 モニター上で、アーサーがあと岩山2つというところまで来た。あと一つ移動したらさっきのように岩ごと撃ち抜いてやる。油断はしない。アフェリオンの出力も一段上げた。さぁ、早く移動しろ、、、

「...何してるの?」

 モニターに映るアーサーは岩山の後ろで動かない。こちらを窺っているわけでもなく、ただ茫然と立っているだけだ。

 徐にアーサーが左腕を上げた。特に何かを持っているわけでもない。拳が天を向く。その拳の上、手首付近に赤い光が集まり出したと気づいた頃にはもう遅かった。

キィィィイン シュインッ

 何かがモニターに向かって高速で近づいてきて、リネットの左右が赤く染まった。赤は徐々に晴れ、画面も戻ってきたが...

「!?操作ができない...」

 手元の端末を操作してもオービターが反応する気配がない。それどころか、指示とは全く無関係な動きをしている。

「まさか...システムに侵入(ハッキング)されたの...?」

 気づくと上空にオービターが来ていた。モニターにセンチネルの姿が映る。

 リネットは一瞬パニックになった。しかし王国大会4連覇の名は伊達ではない。深呼吸を挟んだ後の顔は落ち着きを取り戻していた。


 群眼は潰された。ならば静寂も投げ捨ててやろうではないか。

 リネットはアフェリオンの引き金を引いた。その先は岩山だ。

 手前の岩山が砕けた。その隣のも。その奥のも。リネットは周囲一帯の岩山を全て打ち抜き、粉砕した。

「これで見やすくなったわね」

 立ち上る硝煙の中にセンチネルが赤く目を光らせた。


「おいおい、マジかよ」

 通信でユウジの驚いた声が聞こえる。

「自分から遮蔽を取っ払っちまうだなんて...俺としてはありがたいけど」

「ふん、こっちの方がやりやすいだけよ」

「わわっ」

 なぜかテオの通信からセリアの声がした。

「ちょ、セリアあんま身を乗り出さないでよ!ヘカトンのコックピットはタイタンよりも小さいんだ!」

「しょうがないじゃん、あたしだって映像見たいもん!」

 観戦ドローンはテオのヘカトンとしか繋がっていなく、セリアが見るために必然的にテオのコックピットに乗り込んでくる必要がある。

「ちょうどいいわ」

 煙が薄まり、その奥に見える黒騎士に向かってリネットが告げる。

「ユウジ。勝負よ。あたしはここから動かない。あなたが私の射撃を全て避けて私までたどり着いたらあなたの勝ちよ」

「...かなりこっちに有利に思えるけど?」

 ユウジはこちらに辿り着くだけでいい。それだけ聞けば有利かもしれない。

 リネットはアフェリオンのマガジンを引き抜き、横に投げ捨てた。中に残っていた模擬戦弾が転がり出る。そして腰につけていた別のマガジンを装着する。

「っ!リネット、それは...!」

 テオが息を呑む。

「...ただし、私は『本気でいくからね』」

 ラジエリウムの弾丸。センチネルの本来の弾だ。

「なるほどね」

 ユウジが小さく笑う気配がした。

「群眼も静寂も無くしてやっとこさ狩人の本気が見れるんだ」

 アーサーが背中の大剣を構える。

「その勝負、受けた」

 アフェリオンが火を吹く。それが開戦の合図となった。


「テオっあれ、大丈夫なのっ?」

 ぎゅうぎゅう詰めのコックピット内でセリアがテオに尋ねる。

「センチネルの専用弾。ラジエリウム合金を主成分とし、表面を極限まで滑らかにした。その精密さにアフェリオンのラジエル加速機構が合わさってほぼどんな装甲も貫ける──説明はそうなってるね」

「えぇ!?じゃあ危ないじゃない!止めないと...!」

 テオは上に乗るセリアの背中に顔を押し除けられながら言った。

「いや、まぁユウジなら大丈夫でしょ。僕もリネットの本気、見てみたいし」

 なにより、この2人は止めても止まらないだろうからね、とは口に出さないでおいた。


 テオの言葉を聞いてもまだ不安そうだった顔は、銃撃が始まって間もなく輝きを帯びた。

「わぁ...」

 ダンッ ダンッダンッ ダンッ

 流星のように尾を引き追ってくる弾を、アーサーは高速移動ではなく最小限の機体の動きで躱している。

 だが流石に迂闊には近づけないようだ。センチネルとは一定の距離を保っている。

「はぁっ、はぁ...やるわね」

 普段のリネットからは絶対に聞けない、荒い息遣いが通信を流れた。

「このままじゃ埒があかないわ」

「...お互いにね」

 ユウジの声も息が上がっている。

「...これを使う予定はなかったけど...」


 銃撃が止んだ。

 アーサーがその隙をついて一気に加速しようと背中のターボを光らせる──いや、途中で止めた。そしてゆっくりと直立姿勢に戻る。その目線は丘上のセンチネルにまっすぐ注がれていた。

 センチネルの背中から2本のアームが立ち上がり、後ろの地面に突き刺さる。アフェリオンが変形し、センチネルの両腕とドッキングする。

 変身シーンに手を出す奴は外道だ。ユウジは狩人が変貌する様をじっと見つめた。

「おいおい、ありゃあやべぇんじゃねえか!?」

 いつのまにかそばの岩の上に登っていたドレイクが言う。リネットが周辺一帯の岩山を壊したおかげで観戦側は見やすくなった。フレイムコングの隣にはアリスのヘカトンの姿も見える。

「なに!?あれ...」

 依然として顔を圧迫されながらテオが難しい顔でセリアに答えた。

「...【狩人(オリオン)()裁定(ジャッジメント)】。 センチネルとアフェリオンを合体させ、高濃度圧縮ラジエル粒子を解放。本来は対集団に使うものだけど、拡散を極限まで抑えることで一点突破も可能にした─僕も見るのは初めてだけどね」

「えっ...それって機獣相手の想定だよね...?」

 その通り。王国の大会でも、これほどの大技をタイタン相手に放つなんてあり得ない。

 だがもう止めるには遅い。センチネルの体が赤く輝き、その光がアフェリオンの先端へと流れ、集まっていく。

 ──全ての赤が集まった。

「受けてみなさいっ!!」

 リネットがレバーを前に倒した。

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