炎と剣
「おらおらおらおらぁ!どうしたユウジ!当たっちまうぜぇ!?」
先ほどよりも大きな轟音を響かせながらドレイクが吠える。音だけでなく火力も相当上がっている。弾が通り過ぎた後の地面から砂埃が舞う。
「当たるのはごめんだね!」
ユウジがそう言った次の瞬間、それまで地上を駆け回っていた黒い影が大きく飛び上がった。
「飛んだ!?」
「いえ、あれはジャンプね。あれほどの高さは初めて見るけど...」
しかし空中では制御は効かない。飛び上がりの直後は高速だとしても、高度が上がるにつれ速度は下がっていく。
「おいおい、いい的だぞ!」
フレイムコングが狙いを空中に定める。アーサーが最高点に達した瞬間を狙って、インフェルノが火を吹いた──
「なに!?」
「え!?」
「うそ...」
最高点に達したと思われたアーサーが再び急激に上昇したのだ。偏差を狙った弾丸は空を切っていく。
「2段ジャンプ...?いや、あれは....」
リネットは空中で方向転換を繰り返すアーサーを見ながら、信じられないといった声で言った。
「まさか、空中移動...?飛行ユニットもなしに、既存のブースターで...?」
「やっぱり飛んでるじゃん!」
セリアが興奮気味に言う。
「あは...すごい、すごいよ、2人とも...」
テオは半ば放心状態でこの戦いを見ている。
「....イレギュラー」
その横でアリスはボソっと呟いた。
「ちぃ!上で飛ばれると狙いが定まらねぇ!」
機体の大きさの影響か、フレイムコングは一定の高度以上に銃口を向けることができない。ユウジは真上を飛び回り、ドレイクを撹乱している。
突然、アーサーが急降下した。ちょうどドレイクがアーサーを見失っている虚をついた形となる。
「うぉぉりゃぁああ!」
ガンッ!!
鈍い音と共に大剣がフレイムコングの頭部に振り下ろされた。架空損傷プログラムで、フレイムコングの耐久が半分になる。
「今ので半分?硬すぎだろ!」
至近距離では分が悪い。一撃入れたアーサーは距離を取ろうとするが、
「やってくれたなぁ!」
その隙を逃さまいと、フレイムコングが肩のキャノンを両門同時に放つ。
ドガアァァァンッッ!!!
さっきよりも大きな衝撃とともに土煙が舞い、2機を見えなくした。
「ユウジ!?」
「っ....」
観戦者全員が固唾を飲んで、立ち上る土煙を見つめた。
一瞬、煙の中で光が煌めいた。そして次の瞬間、黒い物体が飛び出した──アーサーだ。そのまま離れた場所に着地する。
「これを防ぐとは思わなかったぜ...」
土煙がはけ、フレイムコングの姿が見えてくる。キャノンの先にあったのは、赤く光を放っているシールドだった。
「ラジエルの...エネルギーシールド!?どこからあんなのを...」
まだ身構えているアーサーに対し、フレイムコングがインフェルノを下ろした。
「参った。これも防がれちゃあ俺の負けだ」
悔しさの滲む、しかし清々しい声でドレイクが言う。
「認めるぜ。俺はユウジが俺たちのリーダーであることに異論はねぇ」
「...ありがとう。ドレイクもすごかったよ」
「模擬戦終了。ドレイクの降参により、ユウジの勝利となります」
「やったぁぁぁあ!」
なぜかユウジよりも喜んでいるセリアの横で、リネットが低く呟いた。
「確かにやるわね。それでも...」
その目は、フレイムコングと一緒にこちらへ歩いて来ている【黒騎士】をまっすぐ見据えている。
「それでも、私自身が確かめないと」
「2人ともお疲れ!どっちもすごかったよ」
ドレイクと共にみんなのところに戻ると、セリアがはしゃいで言った。
「やっぱりタイタン戦は機獣戦とは違った面白、じゃなくて感覚があるね」
「おいユウジ、今面白いって言わなかったか?」
「いっいや?気のせいじゃない?」
ドレイクに突っ込まれていると、通信越しに荒い息つぎが聞こえた。
「はぁ...はぁ...すばらしい...はやく...はやく解析しなければ...」
テオ=ランドールその人であった。
「ちょっとテオ、まだあるでしょ」
ヒバリスがテオのヘカトンを小突く。
「ちょっとセリア、タイタンの力で押したら危ないんじゃ...」
正気に戻ったテオが、次の模擬戦の段取りを進める。
「さすがに近接機体と狙撃機体の対決で遮蔽無しはまずいから、フィールドは今送った【岩山】でいい?」
テオから送信されたフィールドデータを見る。その名の通り大きな岩がところどころに出っぱっている。アーサーも動きにくいし、極端にスナイパーが狙いやすいということもないだろう。
ところでこのフィールドってどこにあるんだ?訓練場は見渡す限り草原だ。別の施設かな?
「うん、いいよ」
「これでいいわ」
「了解。それじゃあちょっと待っててね...」
しばらくテオが何か操作している間、俺は改めてリネットの機体を観察した。細かく見ると、ボディはほぼ内部フレームだけといえるほど細い。関節もこれといった特徴はないが...
「背中のスナイパーライフルと、やっぱりあのラックだよな...」
その背中には2つ折りのライフルに加え、左右に一対ずつボックスがついている。中に何かが入ってそうだが...
こちらの視線に気づいたのか、リネットもこちらを向いた。
「...本気でいくからね」
凛とした声で宣言される。
「こちらこそ。よろしくね」
「ここをこうしてっと...よし!できた!」
テオの作業が終わったようだ。
「みんなちょっと下がっててね」
全員が下がったのを確認したあと、テオが操作を続ける。
「いくよ」
ゴゴゴゴゴゴゴ
細かく地面が震え出し、目の前の草原の緑が灰色に変わった。波打つ地面からボコボコと小さな塊が突き出てくる。
塊は徐々に固まり、振動が収まった頃には草原は岩山に変わっていた。
「すごい!なにこれ!?」
思わず大きな声が出る。
「【戦域演算炉】だよ。訓練場地下にある巨大ジェネレーターで、数種類のフィールドを形成できるんだ」
この地下にそんなのがあるのかよ...やはりすごいな、ヴァルディア学園。
前から知っていたであろうセリアを除いてあとの2人も呆気に取られていたが、アリスの通信でなんとか我に返る。
「...それでは次の模擬戦、ユウジ対リネットの試合を行います。両者、開始位置へ移動してください」
先に動き出したリネットに続く。今回は離れた場所からのスタートで、開始位置もお互い分からない。
指定位置に到着して間もなく、リネットも着いたという通信が入る。
「それでは───【アーサー】対【センチネル】、はじめ!!!」
タイトルの読み方は「ほのおとつるぎ」だったりします




