壇上の少女
夢を見た。
世界が横倒しになっている──いや、自分が横になっているのか。なかなか気持ちがいい...これはベッドの中か。小屋のベッドにはない柔らかさ、、、なかなかいい夢だ。
あたりは明るく、部屋を朝日が照らしている。見たことのない部屋だ──むむ、見覚えが、、、?
目線の先で何かが揺れた。朝日をキラリと跳ね返す銀の──髪の毛。銀髪の少女が背をこちらに向けて佇んでいる。一糸纏わぬ姿はその肌の白さも相待って、精霊のような神々しさすら感じさせる。
───って待てい。こんなヘンテコな夢があってたまるか。あの背中はどこかで──あ。
「アリス!!なんでまた裸なんだよ!!」
ユウジは布団を蹴飛ばして跳ね起きた。
「あ、ユウジ。起きましたか」
銀髪の精霊─もといアリスはそのままこちらを振り向こうとする。
「ちょこっち向かないで!」
思わず目をおおう。アリスは一瞬黙った後、ふぅと小さく息を漏らした。
「...あぁ、そうでしたね。ユウジはなぜか私が服を着ていないと見てくれないのでした。ユウジに見て欲しいので服を着ます」
そういうわけじゃないんだけどなぁ...
「そもそもなんで裸だったの?」
びっくりしたじゃないか。
「制服が届いていたんです。とりあえず着替えようと思って服を脱いだのですが、制服を見たら知らない繊維などがあったのでそのまま見入ってしまいました」
神々しく佇む精霊の後ろ姿は制服を眺めるアリスの後ろ姿だったのか。っていうか
「制服届いたの!?見たい見たい...けど目を開けられない!」
腕で目を隠したままジタバタする。
「全くユウジはせっかちさんですね。はい、着替え終わりましたよ。目を開けてください」
そう言われて腕を下ろす。
「わお...」
定番のスーツスタイルだが、上着の襟の淵には金の刺繍。ポケットにも紅く線が入っている。そして胸元には学園の校章である、タイタンのエンブレム。形こそ前世の制服に近いものの、圧倒的に細かい装飾が多い。何よりも下地が白だ。アリスの小顔も相待って、かなり新鮮に感じられる。
「どうですか?」
「うん、似合ってる」
うわ、制服でその笑顔もまた刺さるな。
「ユウジの分はこっちです。支度が終わったら着替えてください」
そう言われて、畳まれた自分の制服を受け取る。上半身はアリスと同じだが、アリスが膝丈ほどのスカートだったのに対し、俺は上と同じ色合いのズボンだった。
「あ、すごい。ぴったりだ」
履いてみて、サイズがぴったりであることに驚く。
「寮の受付をするときにサイズも記入するんです」
そうだったんだ。ってかアリスさんなんで俺のサイズ知ってるの?寝てる間に測ったの?
着替えて、手頃な軽食を手に取る。前世のパンみたいなものだ。入学式の時間的に食堂で朝ごはんは厳しそうだったので、昨夜時点で食堂から入手したのだ。これからも部屋にいくつか置いておこうと思う。
驚くべきことに、この学園は完全無償だ。学費なし、食費なし。今食べてるのも、食堂にある「ご自由にお取りください」だ。ヴァンガードは試験があるものの、プライマリーに至っては誰でも入ることができる。タイタンの知識、技術が義務教育レベルの必須級とはいえ、こんなことができるのは王国が支援してくれているのと、ロドリク学園長の器量だろう。
「そろそろ行きましょうか」
袋の中身がなくなった時点でアリスが言った。ちょうどいい時間だ。
部屋を出て、フロントに向かう。他の部屋からもちらほら制服姿が出てきている。真新しい衣装に身を包み、皆浮き足立っているようだ。かくいう俺もかなりワクワクしているけどね!
セリアはさすが学園娘ということで、入学式で新入生代表としてスピーチをするらしい。だから朝は別行動だ。セリアの制服姿を見れないのは残念だが、聴衆の立場からお話を拝聴しよう。
式典の会場は、筆記試験の会場でもあった大ホールだ。試験時は机椅子が並んでいたため分かりにくかったが、それらが取り払われた今、かなり大きなホールだと分かる。
中に入ると、すでに他の生徒が列を作っていた。並び順は自由らしいので、適当な場所に並ぶ。
「あの...ユウジ、こんな端に並ぶ必要があるのでしょうか?」
隣のアリスがジト目で見てくる。選んだ「適当な場所」とは壁際である。両側面を壁とアリスで囲んでもらい、完全防御の布陣だ。
「また追いかけられると面倒だからさ」
さすがに式典中に騒がれることはないだろうが、気苦労はないことに越したことはない。
と、ちょうど列の一番前がセリアであることに気がついた。そのさらに前が教員の列になる。役員は最前列にいるのだろう。後ろからで表情は伺えない。
ほどなくして式典が始まった。司会が開始の口上を述べる。最初は学園長、つまりロドリクの話のようだ。
「諸君。私は王立ヴァルディア学園学園長、ロドリク=ヴァルディアである。今日ここに皆がいることをとても嬉しく思う」
初めて会った時のような、静かで、だけれども威厳のある声と話し方。自然と背筋が伸びてしまう。
「ヴァンガードクラスではより実践的な技術を教授していく。皆の中には既に腕に覚えのある者もおろう。仲間内でも積極的に交流し、この学園を、諸君らの未来への礎としてほしい」
大きな拍手が起こった。ユウジも拍手をしながら、壇を降りていくロドリクの横顔を見ていた。
「次は新入生代表挨拶です。新入生代表─セリア=ヴァルディア」
小さなどよめきと共に、セリアが歩き出した。列の横を通り、壇上への階段を登る。その挙動は今まで見てきたセリアからは到底想像できない、気品に溢れている。
「みなさんおはようございます。新入生代表のセリア=ヴァルディアと申します」
よく通る声でセリアが話し始める。ロドリクとはまた違う、透き通るような声にホールがしずまる。
「私はプライマリークラスではかなりやんちゃで、授業を抜け出すこともありました。心のどこかで、こんな座学はやめて早くタイタンに乗りたいと思っていました」
どっと笑いが起きる。セリアは少し恥ずかしそうに、でも話を続けた。
「しかし私はある人と出会いました。その人は私を救い、私の人生を変えてくれました。彼は私が見た中で一番カッコよく、美しく、強い人でした。私の甘ったれた考えを笑顔で叩き直してくれました」
「えっ...!」
思わず声を上げ、周りの視線が集まる前に顔を伏せた。その話が出てくるとは思わないじゃん!
「タイタンは遊びの道具ではないのだと。大切な場所を。モノを。人を守るためにあるのだと、彼は教えてくれました」
、、、さすがに恥ずかしくなってきたぞ。
「今まで私はヴァンガードクラスにただ漠然と憧れていました。でも今は明確な目標があります。皆さんと共に、この学園で学び成長していくことを誓うということで、挨拶とさせていただきます」
再び、大きな拍手が起こった。笑顔で壇を降りていくセリアは見ているうちに、やっぱりセリアだな、と思った。
セリアが元いた場所に戻り、司会がいくつか事務連絡をしたあと、こう続けた。
「ではこれで王立ヴァルディア学園 ヴァンガードクラスの入学式を終わります。続いてセルのメンバー発表に移ります──」
学園編、スタート〜♪




