入学式前夜
「─ジ。ユウジ、起きてください」
「んん、、、」
アリスの声でユウジは目を覚ました。目をこすりながらゆっくりと起き上がる。
「ふぁ〜、よく寝た〜」
洗面所で顔を洗う。この世界水道はちゃんとしてるのいいよな。学園内だからかもしれないけど。
「ユウジが寝てる間にこの寮を見て回ってたんですが」
部屋に戻るとアリスが切り出した。
「かなり設備が充実してますね。王立の名は伊達ではないようです」
うん、もう完全に高級ホテルだもんね。
「支度ができたら夕食に行きましょう。セリア姉様が下で待ってます」
「セリアが!?」
勘違いを解くチャンスが来たのはでかい。
「じゃあ急いで行こう」
「はい、ただもう一つあります。フロントで寮の部屋割りを見せてもらったんですが、その中にテオ=ランドールの名前がありました。一度会ってみた方がいいと思うのですが」
「そうだね、俺も話したいし。でもセリア待たせちゃうかな?」
「セリア姉様には少し遅くなるかもしれないと伝えてあります」
「ナイス!じゃ早速テオに会いに行こう」
そうしてアリスと部屋を出た。
「ユウジじゃん!」
ノックしたドアからテオの顔が出てくる。さっきまで寝てたのだろう、髪が少し乱れている。
「ここにいるってことは...?」
「うん、合格したよ」
「なんか平然としてるね──」
──────────
他愛もない話をしていると、再びその人柄の良さを認識させられる。アリスとも上手く顔合わせできたし。セリアの手綱を握ってきたのは伊達じゃないってか?
セリアにそろそろ食堂が閉まると告げられ、急いでテオと別れて一階へと向かった。寮の入口にはセリアが少し気まずそうに立っている。
「セリア、お待たせ!」
「ユウジ....」
セリアは近づいてきたはいいものの、ユウジとアリスをチラチラ交互に見ている。あーもう面倒くさいな!食堂閉まっちゃうよ!
「ほら、ご飯行くよ!閉まっちゃう前に」
とりあえずセリアの手を握って外へと連れ出す。
「えっちょ、ユウジっ..!」
戸惑うセリアに構わず食堂へと向かい、中に入った。
「ふぅよかった!ラストオーダーまであと3分ある!」
「ねぇ....ユウジ....手....」
「手?」
セリアに言われて見ると、まだセリアの手を握ったままだった。
「あごめん!痛かった?」
すぐに手を離す。急いでたとはいえレディの手を掴んで走り出すのは良くなかったか...?
「ん....大丈夫だけど..」
心なしかセリアの頬が赤い。
「と、とりあえずご飯取りに行こう。話は席についてからで」
「....わかった」
ちなみにアリスはもうトレイを受け取って席で待機していた。抜け目ないな。
「えっじゃあ全然そういう関係じゃないってこと?」
「そうだよ!てかずっとそう言ってたじゃん!」
「だってアリスちゃん、『今までずっと一緒に寝てました』って、、、」
「それは同じ建物の中で寝てたってことで部屋は別々だよ!っていうか俺とアリスは幼馴染みたいなもんで、恋人とかじゃないから!」
アリスは前もって俺が忠告した通り黙ったまま茶色一色のプレートを黙々と食べて(分解して)いる。
「そうなの?アリスちゃん」
「はい、ユウジの言う通りです。ユウジを男性として意識したことなんて微塵もありません」
そこまで言われるとなんか傷つくけどまぁ今は良しとしよう。
「そっか...うん、2人を信じるよ」
しばらく悩んでいたセリアが、思い切ったように顔を上げた。
「ならよかった」
そのあとはいつもの落ち着いた夕食となった。
夕食を食べ終え、食堂の前でセリアと別れる。
「本当はあたしも寮に泊まりたいんだけど、お父様が許可してくれなくって」
でしょうね!学園長である前にお父さんなんだから。
寮まで歩き、部屋に戻る。午後にかなり寝たはずではあるが、特段目が冴えてる訳でもない。眠れないことはなさそうだ。
「明日は朝に入学式があるらしいね」
「はい、その後に小隊の発表があり、メンバーの顔合わせの予定です」
ヴァンガードは基本4〜6人に司令官と整備士を加えた小隊で活動する。入学試験での成績を鑑みてメンバーが決定され、それが明日の入学式後に発表されるわけだ。
「あと、制服は今夜中に部屋の前に置いておいてくれるそうです」
そう、制服!異世界の制服といえば前世のあの真っ黒で無味乾燥なやつではない。一体どんな制服なのだろうと今からでも心躍る。
「どんな制服か楽しみだな」
「せっかく作ったこの服からもう変えないといけないと思うと残念ですが」
アリスがスカートの裾を小さくつまむ。それもいいけど、制服姿のアリスも似合いそうだ。
「はは。じゃあ明日に備えて、ゆっくり休もう」
「はい。私はまた肉の分解をする必要がありますので、ユウジはごゆっくり」
あ、さっきまたご飯食べちゃったもんね。
アリスはそばの椅子に座り、ユウジはベッドに腰かけて窓から外を眺めた。この暗闇が明日どんな風に見えるのか想像しながら。そしてうつらうつらし始めてきた頃にベッドに潜り込んだ。




