丘上の景色
「あ!ユウジ、こっちだよー!って....」
人が行き交う会場の隅でユウジを待っていたセリアとアリスは、探し人の顔を見つけ声をかけた。
「その後ろのは...?」
ユウジの後ろには前半のアリスの時のような人だかりがついてきていた。
「君、3週間前にオスカーと決闘してた人だよな!?」
「特例で試験を受けるってのは本当だったのか?」
「さっきの動きはどういうことだ!」
「やっぱりかわいい!」
セリアが耳を澄ますとこんなことが聞こえてきた。
「あちゃあ、やっぱりねぇ」
セリアは思わずこめかみを抑えた。
「ユウジ、その後ろの方々は?」
アリスだけが横で呑気に尋ねている。
「セリア〜〜!助けて!」
こちらを見つけるや否や走ってきたユウジがセリアの背中に隠れる。
女に隠れる男って、、、とは一瞬思うが、そのつぶらな瞳(セリア視点)に見つめられてはどうしようもない。
「はぁ、、、すみませんみなさん、色々聞きたいこともあるかと思いますが、ひとまず試験結果が出てからにしませんか?」
セリアは小さく息をついて、ユウジを追ってきた群衆に向かって言った。
「あれはセリア様か?」
「確かにまだ試験中か」
徐々に群衆がはけていった。って、この流れ前にあったような?
「さて、それでユウジ。どういうことかしら?」
まだ後ろでビクビクしているユウジに聞く。
「今回はかなり気をつけたんだ!どうすれば相手を傷つけないかずっと考えたんだぞ!」
「詳しく聞こうかしら」
「いいよ、まず試験内容が.....」
ユウジの言い分はこうだ。試験内容はタイマン。試験官がなぜか剣を手放したためこちらも剣を置いたところいきなり突っ込んできたので、10回ほど回避したのち相手を投げ、怪我をしないよう地面に落ちる前に支えてあげた。
「それにしてもなんで剣を捨てたんだろう?こっちが破損しないようにしてくれたのかな?やっぱり試験官も...」
「あのねぇ.....」
まだ話すユウジを遮る。
「な、なに?」
「普通の試験生が試験官相手に10回も攻撃をかわせるか!あとなに!?タイタンを投げたって!?挙げ句の果てに着地ケアまで...」
「えっと...」
頭を抱えてしまったセリアの代わりにユウジが横のアリスを見る。
「やりすぎるなよ、でしたっけ?」
「くっ」
「まぁともかく無事に終わったんだし、お昼ご飯食べに行かない?」
「そうだね、時間もちょうどいいし」
「賛成です」
ん?賛成です?アリスはものを食べれるのか、とユウジは思った。もちろん口には出さないが。まぁなにか案があるのだろう。
「そういえばさっき試験結果って言ってたけどいつわかるの?」
「実技はその場で点数がつくし、筆記は今多分総動員で採点してるから夕方前には結果が出るよ」
受験日当日に結果がわかるってすごいな。
食堂は、ここに食べに来るために試験を受けたんじゃないかと思われるほどごった返していた。順番待ちの列に並んでる最中、周りの雑音に紛れてユウジは後ろのアリスに小声で尋ねた。
「アリスってご飯食べれるの?」
「可能かと聞かれれば可能です。体内でラジエルに分解することができます。ただかなり面倒なので今後は控えたいですね。が、今は別行動するわけにもいきませんので」
なるほどねぇ。
順番が来て、各々昼食のプレートを受け取る。アリスのプレートを見て俺とセリアは同時に目を剥いた。
「ちょなんだそりゃ!?」
「アリスちゃん意外とワイルドなの!?」
アリスは単品の小皿をいくつか頼んだようだ。しかしほぼ一種類、しかも全て肉である、どこを見ても茶、茶、茶。見る人が見れば卒倒しそうだ。
「これが一番分解しやすいんです」
言い方!とユウジは心の中で叫んだ。
「分解...?」
「消化ね、消化」
なんとかフォローする。口調は人間らしくなったとはいえまだまだ危なっかしいな...
空いてる席を見つけ、3人で座る。アリスを見ても普通に食べてるようにしか見えないが、あの中で何が起こってるかわかったものじゃない。
「ふぅー、ご飯も食べたし、これから何する?」
食堂を出てのびをしながらセリアが言う。
「特に何もないな」
「じゃあさ、あたしのお気に入りの場所行こうよ!前は時間がなくて行けなかったから」
「おっセリアのお気に入り?いいよ」
「異論ありません」
そうして人気がにぎやかな広場を外れて、「お気に入りの場所」へと向かった。
「ねぇセリア、ここって通って大丈夫なの、、?」
ユウジは数メートル前を進むセリアの背中に声をかけた。
「大丈夫よ、何度も来てるし」
「けどここってどう見ても、、」
ユウジは周りを見渡して言った。
「森の中、だよね?」
食堂を出てセリアについて行くこと10分ほど。最初は小道を進んでいたのが突然横の茂みに突入し、獣道(学園に獣はいないので、つまりセリアによるセリア道)を進んで今に至る。
「位置情報を参照─一応学園内です」
横のアリスが伝えてくれる。
「そりゃ外だったらやばいんだけど」
そう言いながらスイスイ進んでいくセリアの背中を追う。
「学園内にこんな森があるなんてどれだけ広いんだよ」
それからさらに5分ほどして、セリアが振り返った。
「ここだよ!ここを出たところ!」
2人が着くのを待ってから、セリアが進み始める。
木々の葉を押し除けた先に広がっていたのは
──見渡す限りの緑だった。具体的には芝生。つまり訓練用敷地だ。俺たちがいるのは丘(というか崖)の上で、そこから見下ろす形となる。
さらに遠くには建物が立ち並んでいる。王国の中心部だろう。反対側には、王国の城壁の向こうにヘルディア平原が広がっていて、巡回のタイタンが豆粒サイズだ。
片方には王国、片方には草原。そして目の前にはタイタンの訓練場。今日は試験でタイタンがいないからか、先ほどの喧騒とは打って変わって静かな空気に包まれる。
「すごい、、、綺麗だね」
「でしょ?」
セリアが満面の笑みでこちらを見る。
「授業がつまんない時よく抜け出してここに来てたの。それでヴァンガードの訓練を見て、早くああなりたいなぁって。でもそれももうすぐだね!」
「よく抜け出してたんかい...」
ふと丘の下、崖に接するように建っている建物を見つけた。
「あれ?この建物ってたしか、、」
「うん、整備場だよ。テオが使ってた所」
やっぱり。前は下から中に入ったが、上から見るとこういう位置関係だったのか。
「テオもここに来るの?」
「うん、たまに連れてきてるよ。あとたまに窓からテオの仕事のぞいたりもしてる」
自分の作業中に学園長娘が窓から覗いてるってやばすぎだろ。
「テオさんも試験を受けてたんですか?」
横で静かに立っていたアリスが聞いた。
「整備課の人たちは1週間前にもう試験をやって、結果も出てるの。確か今日も、貸し出しのタイタンの整備をするって嘆いてた」
「そうなんですね」
「っていうかアリスちゃん、テオを知ってるの?」
「いえ、ユウジから聞いただけです」
正確にはインカム越しに、だけどね。
「ってことはテオは受かったってことか。流石だな」
「当たり前よ。まだ聞いてないけど多分トップだよ」
セリアが誇らしそうに言う。
「すごい信頼してるんだね」
「まぁ、ずっと一緒だし、、、」
と、ここで学園内放送が入った。
『お知らせいたします。本日の試験結果及び合格者が決定しました。中央広場にて掲示を行っています。繰り返します──』
「来たみたいだね」
「じゃあ行こっか!」
そう言ってセリアがまた森の中に戻ろうとする。
「ちょっと待って。まさか来た道を戻るの?」
「?そうだよ?」
いやそんな真顔で言われても。横を見るとアリスもやれやれと言った感じに首を横に振っている。
「マジかよ...」
ユウジは一瞬止まった後、諦めて木々の間へと歩を進めた。




