回り始める歯車
王立ヴァルディア学園の入学試験日。学園内は多くの試験生や試験官でごった返し、そこかしこで賑やかな声が聞こえてくる。
そしてそれはここ─タイタン整備センターであろうとも同じだ。
「アウローラ3機にヴァルカン1機入ったぞー!」
「こっちはもう一杯だ!別に回してくれ!」
早朝の競りのような声が飛び交う整備センター内で、テオ=ランドールは大きく息をついた。もう何機のタイタンが自分のボックスに入り、そして出したか覚えていない。そして今、また新客が入ってこようとしている。
「やばいとは聞いてたんだけどなぁ」
ヴァルディア学園には複数場所に整備場があるが、タイタン整備センターはその中の中枢である。他の整備場が小規模でメンテナンスなどを行うのに対し、整備センターではタイタンの大幅改修や開発なども行なっている。
試験日である今日は学園から多数のタイタンを貸し出す。大半の試験生の腕などは言うまでもないので、貸し出したタイタンが無傷で返ってくることはまずない。
そしてこれはたまたまなのか、はたまた仕組まれているのか、整備課の試験は他部門よりも一週間前に行われる。つまり「入学試験日」では、整備課の新人たちがすでに決まっているのだ。かくして、意気揚々な新人たちがこの地獄の整備ラッシュにあっぷあっぷするのが、知る人ぞ知るヴァルディア学園整備課の伝統なのである。
「─って先輩からは聞いたけど」
クレーンに釣られてボックスに入ってくるタイタン達を見ながらテオは小さく呟いた。
「こんなのが伝統でたまるかっての!」
口ではいうものの、その手はすでに操作パネルの上を走っている。
「アウローラは装甲のコーティングが剥がれてるだけで、、、こっちのはちょっと右手首が緩んでるな」
端末で整備ドローンに指示を出し、簡単な整備は任せる。
「それでこのヴァルカンだけど、、、」
透析図を見るまでもなく、頭部が見事に凹んでる。
「こりゃあ、、、どうやったんだ?」
整備ツールボックスを抱えて、作業エレベーターに乗る。
「うわぁ、内部フレームまでいってるじゃん。丸ごと取り替えかな」
端末と本体を交互に見ながら、テオは必要なツールを取り出した。
「よいしょっと」
エレベーターをヴァルカンの頭部まで近づけ、作業に取り掛かる。
「セリアはうまくいったかな」
自分が受かったことはまだ伝えていない。2週間前にヒバリスを渡してからのあの訓練の熱心さに水を刺すことはできなかった。
ヒバリス─ 一緒にプライマリーに入った時に、セリアから「いつかあたしのタイタン造ってよね!」と言われてから3年。なんとかヴァンガード試験に間に合ってよかった。
「まぁセリアなら大丈夫でしょ」
学業、タイタン操縦共にプライマリーではトップレベルだった。
ふと、あの男の子を思い出した。3週間前セリアが連れてきた、黒髪の男の子。見た目こそ可愛らしいものの、その黒く澄んだ目には不思議と力が感じられた。
「あいつのタイタンはどんなのなんだろうなぁ。やっぱり剣?すっごい大きい剣?それをぶん回せるほどの出力を出すには、、、」
テオは今ある唯一の知識「黒騎士」という名前から、まだ見ぬそのタイタンの外見を想像した。
テオが潰れたヴァルカンの頭部をほぼ修復し終えた頃、ブリッジに中年の男が現れた。
「おーいテオ、どんな感じだ?」
「整備長!さっき入った4機は大体終わりましたよ」
「おう!ご苦労」
「それにしても俺だけ数多くないですか?他のボックス見ても全然出入りしてないじゃないですか」
「まぁそう言ってやるな。整備課主席さんよ」
「...」
「仕事は早いしデキもいい、そんな整備士がいりゃあそりゃ回したくなるさ」
「まぁ....別にいいですけど。...っし、終わった!」
ヴァルカン頭部の修復を終え、ツールを片付けつつエレベーターを動かす。
「そういやテオ、今年の試験はなかなか荒れたらしいぞ」
「はい?」
一瞬セリアの顔が浮かんだが、いやそれはないと打ち消す。
「まず【静寂の群眼】と【熱鋼】が出てるんだ」
「え!それはすごいですね」
王国大会連覇中の狙撃手と、機獣討伐で名を挙げている傭兵団の若手エース。【静寂の群眼】はそのパイロットの素性は明かされていないが、【熱鋼】は一度見たことがある。たしか大柄でムキムキな青年だった。
「あとセリア様も出てるだろ。さらにさらに、統制部門で過去最高記録が出たらしい」
「統制部門...あの無茶苦茶なシミュレーションですか」
昔見たことがあるが、テオには絶対向いてない部類のものだ。
「最後にダメ押しだ。近接部門で、フィリップを倒した試験生がいるんだ!」
「えっ.....」
フィリップといえば【試験生殺し】で有名な試験官だ(もちろん殺しちゃいないが)。瞬く間に試験生をボコボコにし、審議役の試験官も基準を乱されると愚痴をこぼしている。フィリップなら、さっきのヴァルカンも納得がいく。
「一番最後の奴なんだけど、フィリップが余興で剣を捨てたんだ。そしたらなんとそいつも剣を足元に置いたらしい!それでフィリップが殴りかかったんだが、全部かわされて投げられたんだ」
「はい?投げられた?」
タイタンがタイタンを投げる?そんなめちゃくちゃな出力が....待てよ。
「それで、フィリップが場外に落ちる直前にそいつが瞬間移動して受け止めて、ゆっくりとおろしたからフィリップも無事だったらしい」
「え?瞬間移動して?受け止めたって....なんかもうめちゃくちゃですね」
「俺もそう思うし、人から聞いた話だからな。でも今年の新入生が粒揃いなのは確かだ。どうだ?腕が鳴るか、主席さんよ?」
「主席呼ばわりはやめてくださいよ...」
とはいえ、楽しみなのは確かだ。まだ知らぬ構造。まだ知らぬ武装。全て解析し、改良したい。
「おっそうそう、一個言い忘れてた」
「なんですか?」
「フィリップを倒したその試験生は誰か分からんが、タイタンの見た目や動きから【黒騎士】って呼ばれてるらしい」
「へぇ....」
「俺の聞いた話はこれで全部だ。もう新しいタイタンは来ないから、早めに上がれよ」
「わかりました。お疲れ様です」
「おう、おつかれさん」
整備長がブリッジから出ていった。
「やっぱり【黒騎士】か」
テオは整備センターの窓から、試験会場の方を見た。
「ユウジ....君は一体何者なんだ...?」
明けましておめでとうございます〜




