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境界線の向こう

 入学試験まで1週間を切った。3日前から1号機たちをシステムから切り離す調整をしていて、アリス曰くおおよそ問題はないそうだ。

『施設の設備は私が遠隔で管理できます。巡回と防衛は3機の独立システムに任せることになります』

3号機の機庫で最終調整を終えたアリスが立ち上がる。その動作が途中で一瞬止まった。

「アリス?」

『いえ...3機を中枢システム(わたし)から切り離しました。タイタン3機ともなるとそれなりの処理負荷がかかったのでしょう』

 そう言うアリスの横顔がどこか寂しげなのは気のせいだろうか。──300年共に過ごしたのだ。3機にアリスのような思考プログラムはないが、アリス側には何か感ずるところがあったのではないか、と俺は思う。

『ユウジ、戻りましょう』

「うん」

『ユウジ、今日はもう一つ最終調整を終わらせたんです』

 小屋へと戻る途中、アリスが言った。

「え?それってつまり....」

『はい、擬似有機外装の調整を終えました』


 時間も時間だったので、先に夕食を食べることにした。

 アリスが洗い物をしている間、ユウジは部屋で教科書をパラパラめくっていた。内容は一通り頭に入っており、平均点程度なら大丈夫そうだ。アリス様様だな。

コンコン

 部屋のドアがノックされた。

『ユウジ、入っていいですか?』

「どうぞ〜」

 ドアが開き、アリスが入ってくる。

「洗い物お疲れさん」

 そのままアリスが俺のベッドに腰掛ける。最初の頃は部屋の真ん中に突っ立ったまま話し始めるという滑稽な図になっていたので、どこかに座るよう伝えたことがある。

『先程も言いましたが、擬似有機外装の最終調整が終わりました。起動後を見せてもいいのですが、せっかくですのでここで起動しようかと』

「今ここでってこと?」

『はい。よほどのことがない限り解除することはありませんし、ユウジはこういうのが好きかと思いまして』

 うん、めっちゃ好き。

『では始めます』

 アリスが立ち上がり、部屋の中央に立つ。と、一瞬部屋が静まり返った。

『擬似有機外装・言語パターン5 インストール─システム解凍─』

 アリスの身体が一瞬白く輝き、そして赤い粒子に包まれた。輪郭はぼんやりと分かるが表面は全く見えない。

『パッケージ開封完了──起動』

 アリスを包んでいた赤い粒子がアリスの表面を流れるように動き始める。その流れはだんだんと形をなし、次第にアリスの形が現れてきた。

 最初は手からだった。粒子の赤みが白と混ざり、輪郭が顕になってくる。指、手、腕、、、身体の末端から中心に向かって輪郭がはっきりしてきた。

 、、、、ってちょっと待て。

「ちょちょちょちょストップストップ!」

『一度起動したら完了するまで中断はできません』

「じゃあせめて....」

 ユウジは自分の目を手で覆いながら叫んだ。

「服を着てくれ!!!」

 予想はできたことだった。アリスは「外装」を纏う技術を起動したのだ。

『─擬似有機外装 起動完了』

 その声を聞きユウジは手の隙間から前を伺う─そして神速でまた目を隠した。

 神速の狭間に見えたのは、一糸纏わぬ純白の少女─いやアンドロイドだけど─であった。

 人間の「外装」である「皮膚」を纏えば、そりゃあ裸、、、だよなぁ。くそ、人生(?)23年目にして初めて見た女性の素肌が異世界のアンドロイドだなんて!

「ユウジ、何をしているんですか?ちゃんと見て確認してください」

「服!服をまず着て!」

「服はあとで着ます。でも服を着ると見れる表面積が減るじゃないですか」

「それでいいから!じゃないと俺が捕まる!」

「捕まる?誰にですか、ここには私たちしかいませんよ」

 結局ユウジが再び目を開けれるようになるのに5分かかった。

「しょうがないですね....服を着ればいいんですね」

 うんそうそう、やっとわかってくれたか。そういえばこの家には女物の服はないはず、ということは服も...?

「はい、着ましたよ。ユウジ、目を開けてください」

 恐る恐る目を開けると、今度は凍りつく番だった。つい先程までのアンドロイドの面影はどこへやら、俺の前に立っていたのは──

 淡い色のシャツに体のラインに沿ったベスト、そして落ち着いた色のスカートを纏った少女だった。少し不満そうな顔をしてこちらを見つめている。周りにはかすかにラジエル粒子が漂っているから、やはり服もラジエルで作り出したのだろう。

「アリス、、、だよな?」

「?そうですよ」

 顔は確かにアリスのままなのだが、微妙な表情の変化や細かい仕草などは完璧に人間だ。口調も、さっきは気づかなかったが確かに人間らしい抑揚がある。

 ってそれそれ。その頬をポリッとするのは完全に人なのよ。

「それでユウジ、今度はちゃんと見てください?」

 そう言われて差し出された右腕を恐る恐る手に取る。色こそは雪のように白いままだが、確かな温かみと、滑らかな手触りがある。少しフニっと押してみてもフニっと押し返してくる。

「完全に....人間の肌だ....」

 やっぱとんでもねーわこのアンドロイド...いや、()()()は。

「そうですか。よかったです」

 そう言って微笑むアリスの顔に思わずドキッとする。元気溢れるセリアとはまた違う、淑女のような笑顔。俺、この顔と同じ屋根の下で暮らせる気がしねぇよ。


 それから入学試験までの期間を、新しいアリスに慣れるのに費やしたことはまた別の話だ。

メリクリです〜

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