戦わない日の闘い方
『ここ、違います。このインナーフレームにつながっている動力部はこっちです』
隣に座っているアリスが広げた紙面図を指差す。
「うわっ、そうだった!てかここさっきも間違ったな」
王立ヴァルディア学園の見学(?)から一週間経った今───
ユウジは、受験勉強をしていた。
一週間前。テオと別れて整備場を出てから、俺とセリアはロドリクの所に戻った。
「どうであったか?この学園は」
「すごかったです。今なら特別枠をもらっていなくても自分で入学したいですね」
「はっはっは。嬉しいことを言ってくれる」
「あ、そういえばお父様、まだ試験の具体的な内容を伝えてなかったわよね?」
セリアが言う。
「おお、そうであった。
大きく試験内容は二つ。筆記と技術だ。筆記はタイタンや王国についての基本的な知識を問う。操縦は実際のタイタン操縦による操縦技術試験だ。具体的な種目は志望する部門によるが、主要なところで言えば近接部門、射撃部門、狙撃部門、統制部門だ。どの部を受けるかは当日に伝えてもらう」
「えっとすいません。統制部門とはどういう部門なんですか?」
近接、射撃、狙撃はわかるが統制って.....?
「統制部門っていうのは、司令官志望の人が受ける部門よ。直接タイタンには乗らずに、司令部から小隊に指示を出すの。」
横からセリアが教えてくれた。
「そうだ。おそらくユウジ君は近接部門だろうな」
まぁそうですね。ところで....
「あのう、今まで機会がなくて...多分筆記で聞かれる『基本的な知識』がわからないんですけども...」
「「え?」」
親子でハモられた。
「いや、確か遠い地方から来たとセリアが言っておったな。ならば王国の歴史を深く知らないのも無理はない」
そう言ってロドリクが背後の建物の前で控えていた秘書らしき人を呼び、耳打ちをした。秘書は建物の中に入り、何かを持って出てきた。
「プライマリークラスで使っている教科書だ。これに載っている内容が一通り出ると思ってもらっていい」
そう言って手渡された教科書の重みに絶望した。
「これを....3週間で全て覚えろ、と?」
恐る恐るロドリクの顔を伺う。
「なに、よっぽどのことがない限り大丈夫だろう」
「そうよ、どうせ実技はぶっちぎりなんだから」
実力を買ってくれてるのかそれとも能天気なのか。まぁいいや、アリスに手伝ってもらおう。
ん....?んん!?そういえばアリスはどうするんだ!?とハッと気がついた。
そのとき
『ジ─ジージジ─ユウジ、私も入学試験を受けられないか頼んでみてください。話を聞く限り統制部門で通りそうですし、近くにいた方がサポートしやすいですから』
なんともいいタイミングでアリスの通信が入った。てか今まで無言だったけど何してたんだろう。
「ところで一つお願いがあるんですが」
「なんだい?」
「なに?」
「僕はダルカス森林で修行をしていると言いましたが、パートナーと2人でしていまして。そのパートナーも一緒に試験を受けれるようにしていただきたいです」
「ほう!ユウジ君に訓練のパートナーがいたのか!無論、その者にも試験を受けれるようにしておこう」
「ありがとうございます!」
やったぜ!これで頼れるパートナーがずっと近くにいる。
「ねぇユウジ....」
セリアが声をかけてきた。心なしか歯切れが悪い。
「そのパートナーって...男の人?」
「いや.....女....の子、かな?」
「は?」
セリアの顔が凍りついた。
あれ、なんかマズった?ここで「アンドロイドです!」と言った方がマズい気がしたんだけどな。
そんなこんなで2人分の試験資格と教科書を獲得して俺は学園を出た。帰りもセリアが送ってくれたが、どこか会話が少なかった。なぜか目も合わせてくれないような....1日中はしゃいじゃって疲れたのかな?
ダルカス森林の入り口で馬車を降りた。3週間後の試験当日の朝にまた迎えに来てもらうことにし、そのまま別れた。
そして今。アリス先生付きっきりで、なんとか教科書の半分ほどが終わった所だ。
『─で、最後にこれですね。──はい、OKです。今日はこんなところで終わりましょうか』
「ふい〜疲れた〜!」
『お疲れ様です。これでタイタンの基本構造はあらかた終わりましたね。明日からは王国の歴史に入りましょう』
「うっ、歴史かぁ....」
実はというと、ユウジは暗記があまり得意ではない。高校時代の勉強でも世界史はどう頑張っても平均点に乗るか乗らないかだった。
『そんな顔しないでください。タイタンの構造はなぜか初めから知っていたこともあったことですし』
そう、前世のプラモオタクが功を奏し、プラモデルの構造からタイタンの内部組織もあらかた分かるのだ!とは言っ ても動力部はプラモにはないからそこはサッパリだけどね....
『構造で8割ほど、歴史で5割ほど取れれば問題なく受かると思いますよ』
その言い方なんか高校時代の教師を思い出すな....
『そろそろ夕食にしましょうか』
「そうだね」
窓の外を見るともう陽が落ちかかっていた。
夕食を食べ、最近アリスが覚えたダルカス森林に生えている草の葉を使ったお茶を飲む。
『ユウジ、ちょっといいですか?』
洗い物を終えたアリスが台所からリビングに入ってくる。洗い物は一緒にやっていたのだが、コツを掴まれてはあちらの方が何倍も早く丁寧にやってしまうので家事に関しては俺の出る幕はもうないようだ。
「うん、なに?」
向かいに座るアリスに答える。
『2つあるのですが、まず1つ目から行きます。現在この施設は私の管理下にありますが、私が離れるとなると具体的な状況が把握できません。なので、1号機たちに私がいなくても基本的な行動ができ、そして私が遠隔で状況が分かるようなプログラムを作り、それが今日完成しました』
「おお!」
『ユウジが学園内を視察している間1号機たちを見てみて、プログラムが動きそうかを確認していたんです』
なるほど、俺とセリアが回っていた時に静かだったのはそういうわけか。
『2つ目です。私も学園に入ることになるわけですが、王国ではまだ私のような自律システムは一般的ではありません。なので、周りの人には私を人間に見せる必要があります』
そうだねぇ。今のアリスは顔こそ人そっくりだが肌が白すぎるし、何より首より下に所々モールドの線が入っている。
『アルヴァン博士が開発途中だったラジエルの擬似有機外装技術を開発し直しています。もう少しで実用化できます』
「.....もうなんでもありなんだなラジエルって」
『そしてユウジが王国にいた時に採取した音声データから、より人間らしい口調と言葉選びのアルゴリズムも開発中です。これも擬似有機外装と同時期程度に完成すると思います』
「わかった。楽しみに待ってるね」
話を終え、ユウジは自分の部屋へと戻った。より人間らしい口調のアリス?全然想像できないな。
布団に寝転がりながら教科書を軽く見返す。そして瞼が重くなってきた頃、眠りについた。
この晩から8日後、俺がとりあえず一通り教科書の内容をマスターした頃。「その日」は来た。




