学園見学
休み中ということで食堂は閑散としていたが、それでも足を踏み入れた途端、視線が一気に集まったのが分かった。
そりゃあセリアはともかく学園長が食堂に来るなんてそうそうないからねぇ....
食事についてはかなり良かった。アリスの料理は半分ほど前世の知識が元だったので純度100%のこちらの世界の料理は初めてだ。聞きなれない料理名に最初は手が鈍ったが、意外と食べてみればイケる。
「セリアってここよく使うの?」
前で勢いよく頬張っているセリアにユウジが尋ねる。
「もぐもぐ...はに?(なに?)」
「あごめん、食べ終わってからでいいよ」
セリアが飲み込むのを待って同じ質問を投げる。
「うん、毎日使ってるよ。ただお父様は....」
そう言って横で涼しい顔をしているロドリクをジロリと見る。
「もう、お父様までついてくるなんて!スタッフさん困ってたでしょ」
確かにロドリクにトレイを渡す時だけ手震えてたもんな。
「時には我が生徒と同じ立場になってみるのも教育者として大切なことだよ」
それっぽいこと言ってるけど、本当は娘と一緒にご飯食べたかっただけだよね?
「ねぇ、この後学園を見て回らない?あたしが案内してあげる!」
トレイをカウンターに戻しながらセリアが言った。
「ここについて何にも知らないまま試験を受けるよりも一旦見といたほうがいいと思う」
「それはいい考えだな。ぜひ見ていってくれ」
ロドリクが横から口を添える。
「僕も見てみたいです。じゃあセリア、よろしく」
「うん!」
食堂を出てロドリクと別れ、ユウジとセリアは学園の中へと向かった。
「あそこがさっきユウジが戦った決闘場。大会とかにも使われるの」
大会なんてのもあるんだ。
「でその奥に訓練場があるの。フィールドがいっぱい分かれてて、色んな訓練ができるんだよ」
そう言われて決闘場の向こうを見てみると、かなり広大な敷地が広がっていた。ところどころにタイタンがいる。訓練中だろう。休みでも訓練をする人がいるのはどの世界でも同じだな、と独言る。
「ここで訓練できるのはヴァンガードクラスになってからなの。だから、すっごい楽しみ!」
「ここで訓練できればわざわざダルカス森林まで行かなくていいいしね」
「ちょっとユウジ!」
そんな感じでいろんな場所を案内してもらった。プライマリークラスの校舎、技術開発場、多目的会議施設などなど。
「ここが最後、整備場だよ!」
そう言ってセリアが目の前の建物を指差す。
「この学園ではタイタンの整備も生徒が自分たちでやってるの。と言ってもパイロット本人じゃなくて整備課の人たちだけどね」
専属の整備士もいるのか。整ってるなぁ。
「中に行ってみよう」
中に入り、何個目かのブロックへと歩を進める。そこでは、いくつかの小型機械が浮遊しながら一機のタイタンの周りを回っていた。時々溶接のような火花が散る。
小型ロボットで修復か...いいね!直しているのはアウローラだろう。
ん待てよ、このカラーリング....どこかで見た覚えがある。
「セリアが乗ってたアウローラか?」
「うん」
少し気恥ずかしそうにセリアが答える。
「すごいな」
ボロボロだったはずのアウローラはもうほぼ装甲まで修復されている。
じっと整備ロボットの作業を見ていると、開きっぱなしだったコックピットから誰かが出てきた。
「あ、いたいた!テオー!」
セリアがその人影に呼びかける。
あちらも気づいたようだ。作業用エレベーターをつたってこちらに向かってきた。
「やぁセリア。もう大丈夫なの?昨日はかなり疲れてたみたいだけど....」
「うん、よく寝たしもう元気だよ!」
「それは良かった」
そして横のユウジの顔を見る。
「ところで君が、もしかしてセリアの『騎士様』かな?」
「ちょっとテオ!?」
どこかで聞いたような掛け合いに今度は驚かなかった。
「騎士呼びはよくわからないけど、多分言ってるのは俺のこと...」
「やっぱりか!セリアが『髪の毛が黒くてサラサラで、見た目は可愛いけどすっごくかっこいい』って言ってたからそうなんじゃないかって」
「きゃああああ今のナシ!聞かないでぇぇぇえ!」
悲鳴とも聞こえるセリアの介入でテオが一旦止まる。
「さてと、それで2人はどういう関係なの?」
ようやくセリアの息が整ったとこところで質問する。かなり親しい感じだけど。
「テオ=ランドール。プライマリーから一緒だったの。試験も一緒に受けるわ。こいつは整備士志望だから整備課だけど」
「よろしく」
改めて顔を見ると、いかにも優男といった顔立ちだった。話し方も落ち着いていて好感が持てる。
「俺はユウジ=アークライト。学園長の特例でヴァンガード試験を受けさせてもらえることになったんだ」
「それで学園内を案内してたところなのよ」
「なるほど、学園長が特例を出すほどの人ってことか」
「そうよ、ユウジのタイタンはすごいんだから!あの時は─」
「ストップ!もう4回は聞いたよ....」
しかしセリアが止まるはずもなくユウジとテオはセリアによって神格化されたともいうべき究極の救出シーンを聞かされた。
俺そんなにすごいことしたっけな...?
「あ、そうそう。さっきコックピット内で制御中枢みてたんだけど....」
セリアが一通り語り終えてからテオが言う。
「回路は剥き出しなのになぜか中の配線は全く問題なくて。まるで誰かが応急処置を、しかもほぼ完璧なのをやったかのようなんだ」
ぎくり
「そういえば関節の動力部も直したような痕があるし....どういうことなんだろう?」
「さ、さぁ〜?」
こっち見ないでぇ。
「ま、まぁあたし、運いいし?」
セリアのアシストもナイスだが目が泳いでる。
「不思議だなぁ.....」
アウローラを見つめているテオは、2人の笑顔が引き攣っていることには気づかなかった。
「じゃあ、あたし達もう行くね」
取り止めのない話を幾分かした後、セリアが切り出す。
「そうだね。俺も作業に戻るよ」
2人が出口に向かって歩き出し、テオはコックピットへと続くエレベーターに足をかけた。
「あ、そうだ!テオ、【ヒバリス】はどうなってる?」
背中にセリアの声がかかる。
「もうほぼできてるよ。あとは最終調整だけ」
「やった!さすがテオ!」
嬉しそうに笑い、振り返って出口で待っているユウジへと駆け寄る。そのまま2人で外に出ていった。
「ヒバリスって?」
「にひひー、秘密!でもすぐにわかるよ!」
遠ざかっていく楽しげな声を背に受けながら、テオは小さく息を漏らした。そしてまたアウローラのコックピットへと入っていく。
「『騎士様』ねぇ...」
呟きは、整備ロボットの作業音に溶けていった。




