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第51話 伝説の終わりと、新たな伝説の始まり

 あの、熱狂の『納涼感謝マーケット』から、一ヶ月。

 季節は、夏から、秋へと移り変わり、私たちの、ダンジョン探索部にも、ようやく、穏やかな、日常が、戻ってきていた。

 廃部の危機は、私たちの、無謀な模擬店が、生徒会と、地域社会に、予想外の、絶大な評価を受けたことで、回避された。私たちの活動は、『食を通じた、ダンジョンと、地域社会との、新たな連携モデルの、模索』という、小難しい、お墨付きまで、もらってしまった。


(ああ、平和……。このまま、静かに、卒業まで、過ごしたい……)


 秋風が、心地よく吹き込む、放課後の部室。

 その、私の、ささやかな願いを、打ち砕いたのは、やはり、この人だった。


「なあ、みんな! そろそろ、次の目標を、決めない?」

 夏帆が、分厚い、古びた本を、ちゃぶ台の上に、ドン、と置いた。

「『伝説のダンジョン飯フルコース』! 残すは、メインの肉料理と、デザート! 今回は、本当の、本当の、メインディッシュよ!」


 本が開かれたページには、黄金の鬣を持つ、気高い、鷲の上半身と、ライオンの下半身を持つ、幻獣の絵が、描かれていた。


「ターゲットは、『金毛のグリフォン』! 七里ヶ浜ダンジョンの、第六階層、『天空のいただき』にのみ、生息する、伝説の王様なんだって!」


 第六階層。

 その言葉に、私は、即座に、反応した。

「無理よ! 私たちの、ライセンスじゃ、第五階層までしか、入れないじゃない! 不法侵入で、捕まるわよ!」

「ふむ」

 澪が、私の言葉に、頷いた。

「ダンジョン管理公社の、規定によれば、第六階層へのアクセス権限は、B級以上の、プロの探索者か、あるいは、特例的な『学術調査許可』を得た、団体にのみ、付与される。我々には、その資格がない」


 そう。資格がないのだ。

 これで、今回の、夏帆の無茶振りも、諦めざるを……。

 私が、ほっと、胸を撫で下ろした、その時だった。


 がらり、と、部室の戸が、静かに、開いた。

 そこに立っていたのは、生徒会長だった。その、涼やかな表情は、いつも通り、真剣だ。


「君たちか、『ダンジョン探索部』」

「か、会長……! 何か、問題でも……!?」

「いや、逆だ」


 会長は、私たちの前に、一枚の、正式な、書類を、置いた。

「先日の、マーケットでの、君たちの活動、実に見事だった。あの、革新的な料理は、我が校の、そして、美浜市の、新たな、観光資源となりうる。地域社会への、貢献度は、計り知れない」


 ……なんか、話が、すごく、大きくなっている。


「そこで、理事会と、生徒会で、協議した結果だ。君たちの、更なる、探求活動を、支援するため、学校として、公社に、『特例学術調査許可』を、申請することにした」


 会長は、すっ、と、書類を、指差した。


「調査対象エリアは、七里ヶ浜ダンジョン、第六階層。調査テーマは、『高深度階層における、未確認食材の、調理可能性と、地域経済への、応用について』。―――君たちの、健闘に、期待する」


 会長は、それだけ言うと、静かに、去っていった。

 後に残されたのは、公式の、許可印が押された、調査依頼書と、呆然とする、私たち。


「うおおお! やったー! 学校、公認の、冒険だ!」

「まあ、金毛のグリフォン……。きっと、気高い、鶏肉のような、それでいて、空の香りがする、素晴らしいお肉ですわね」

「……なるほど。我々の、クラブの、活動理念と、完全に、一致しているな」


 夏帆、ひまり、澪は、すでに、次の冒エンチャーに、心を、躍らせている。

 私だけが、その、あまりにも、重すぎる、現実に、打ちのめされていた。


(学術調査って、何……!?)

(ただの、私たちの、食い意地が、学校全体の、公式プロジェクトに、なっちゃったってこと……!?)


(責任、重すぎるんですけどおおおおおおおっっ!!)


 私の、悲痛な叫びは、秋の、高い空に、吸い込まれていった。

 私たちの、平和な日常は、どうやら、伝説の、その、さらに、先へと、進んでいってしまうらしい。

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